「彼は運がいいだけ」と笑う人が成功できない理由

■ミッション・ビジョン・バリューより「北極星」

本書は、経営者にも役立ちます。スタートアップの教科書の多くには、経営の方針として大事なのは「ミッション・ビジョン・バリュー」だと書かれています。

ロジカルに説明しようとするとそうなるのかもしれませんが、一方で、本書では「ポラリス(北極星)」が重要とされています。

本書では、食品メーカーであるダノンの前CEOのエマニュエル・ファベール(現ISSB議長)が事例として取り上げられています。私はファベール氏とは友人なので、これには驚きました。

彼は、変化の激しい時代においては、綿密な計画を立てるのではなく、「こっちへ向かうのだ」というビジョンを示すことが大事だといつも語っています。

ダノンは、これから混乱と不確実性の時代になると見越して、ファベール氏をバングラデシュという自社にとっての未開の地へと派遣し、修行させました。

本書に「居心地のいい場所から一歩踏み出す」というフレーズがあります。私は原書を読んでいませんが、英語ではおそらく、「Getting Out of Your Comfort Zone」という表現が使われているのではないでしょうか。これは、CEOを育てる際の最も中心的な概念として欧米で頻繁に使われる表現です。

居心地のいい場所から、何が起きるかわからない地に入り、泥んこまみれになり、どうにもならないことばかりを経験したファベール氏は、「緻密な計画を立てるより、北極星に向かって、臨機応変に努力するほうがいい」ということを学んだ。そして、満を持してCEOに就任したわけです。

偶然だと思っていたことに「意味づけ」できる

ファベール氏は、バングラデシュで、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士をメンターとして学びました。私も、18歳の夏、居心地のいい日本という場所を飛び出して、変化するために最もハードな場所としてバングラデシュを選び、ユヌス先生というメンターに出会い、すべてが変わりました。

「こんなに大変なところで、がんばって生きている人々がいるのだから、少々苦しい目に遭っても、なんてことはない」と本当に腹落ちしましたし、変化することが怖くなくなり、良い出会いにも恵まれて、自分の視座が高くなったことを実感しました。

セレンディピティを高めることを意識して行ったわけではありませんが、結果的に変わることができた。

18歳以前の自分は、変化することを恐れていた人間でした。もしあの時踏み出さなければ、大学に残ってずっと研究だけを続けていたでしょうし、起業することもなかったと思います。

この本には、いろんな場所に飛び出して、結果としてセレンディピティを高め、リーダーとなって活躍しているいろんな人が登場しますよね。

最初から恵まれていたわけでもないし、いいことばかりでもなかった。それでも、自らきっかけ(トリガー)を捕まえて大きく変わっていく。

自分の過去について、単なる偶然だったかもと考えていたことを、本書のおかげで改めて意味づけすることができたという思いです。

ユーグレナの北極星経営とは

ユーグレナでは、数年前から、北極星経営をはじめました。全員参加のワークショップを行い、みんなの考えや、人生の北極星を明らかにして、そこに近づいていくことを、会社がどうサポートするかを考えています。

会社としての北極星は、「サステナビリティ」です。いろいろな人生があるわけですから、もちろんそれを尊重します。一方で会社として、持続可能な社会を作りたいけれど、みんなはどう考えているのか。人それぞれ違うでしょうし、そうした違いも話してみないとわからない。だからみんなで話すことをやりました。