「ジブリ電撃買収」を決めた日テレが背負う重圧

本件に限らず、テレビ局によるアニメ制作会社の買収は、当初の思惑通りにいかないケースが散見される。そもそもアニメ制作会社は作品の版権を保有しないのが一般的で、会社という「箱」を買っても、収益源となる作品の権利はついてこない。さらに要のクリエイターも流動性が激しく、買収後に有力な人材が流出してしまうケースが少なくない。

一方でジブリについて、前出のアニメ業界関係者は「箱の中に種(版権や会社のブランド)が埋まっていて、他の制作会社とは異質だ」と指摘する。

ジブリは一般的なスタジオと異なり、制作したすべての作品で主幹事を担っており、版権も他の出資企業と共同保有している。こうした事情もあり、ジブリは各作品に莫大な制作費を費やしながらも、堅調な業績を維持している。

今後のジブリを担う「重圧」

つまり、日テレは今回の買収によって、ジブリ作品の版権も獲得することとなる。業界内では日テレ子会社が運営する動画配信サービスのHuluでのジブリ作品配信なども注目されるが、日テレのIR担当者は「そうした予定はない」と否定している。

日テレ側はあくまで「制作体制については口出しせずに、バックヤードで経営支援をしていく」(同社IR担当者)とし、ジブリの制作から版権運用までのスタイルが大きく変化することは当面なさそうだ。

他方で日テレには、ジブリの今後を担うという意味で重圧ものしかかる。

9月21日に行われた記者会見でジブリの鈴木敏夫氏は、「宮崎駿と僕は、(中略)人材の育成、その他に関してはさぼってきた」と言及し、次世代を育成していくうえではテレビシリーズ制作が必要との認識を示した。

ジブリではこれまでテレビシリーズ作品は制作してこなかったが、テレビをなりわいにする日テレと明確なシナジーを生み出せる領域だろう。

過去にジブリ作品の制作に携わったとある関係者によると、鈴木氏は2000年代前半時点から収益の安定化などの目的でテレビシリーズの制作を志していたという。しかし、制作期間の延長などで映画作品に切り替えられた結果、テレビシリーズが制作されることはなかったようだ。

ジブリの得意手法はなじみづらい?

テレビシリーズを制作するうえでは、ジブリ固有の課題も横たわる。

業界関係者によれば、近年のテレビアニメシリーズでは各話の演出担当が実質的な監督として制作をとりまとめるのが一般的とされ、監督は実質的にそれらを補助する“総監督”の役割に近い。そのためジブリが得意とする、1人の天才的な監督が作品全体の制作をとりまとめるような制作手法とはなじみづらいという。

実際、ジブリが設立される以前に高畑勲監督らが手がけた「アルプスの少女ハイジ」などのテレビシリーズは、高畑氏らが1話ずつすべてチェックするなど、現在ではほとんど真似ができない制作手法だったようだ。

2018年に高畑監督が亡くなり、宮崎監督も歳を重ねる中でジブリの経営を託された日テレは、当然「ポスト宮崎」の制作体制をも担うこととなる。世界的IPの行く末を任された重圧は、テレビ広告費の縮小という経営課題に並んで大きくのしかかるかもしれない。