アクセンチュアvs.電通、「異業種バトル」の第二幕

アクセンチュアと電通のロゴ
アクセンチュアのPR会社買収に、電通関係者は警戒を強めている(左写真:Bloomeberg、右写真:今井康一撮影)

コンサルの雄がまた一歩、広告会社の縄張りに踏み込んだ。

アクセンチュアは10月2日、広告・PR会社のベクトルから子会社のシグナルを買収した。

シグナルは2005年、ベクトルが手がけるPR案件におけるデジタル対応を目的に設立された。そのため複数のPR子会社を抱えるベクトルグループ内でも、SNSコンサルティングやWeb制作、インフルエンサー活用など、デジタルマーケティングに強い。

一方のアクセンチュアは目下、急速にマーケティング領域を強化しており、数年前からシグナルの買収を模索してきた。PRのデジタル化が進む中、ベクトル内で子会社間の事業領域が重複していたこともあり、今回のM&Aが実現した。買収額は非開示だが、ベクトルは株式の売却益で約17億円を計上する。

実は広告代理店で世界2位

アメリカの広告業界専門誌『アドエイジ』によると、実はアクセンチュアは世界のエージェンシー(代理店)の売上高で、イギリスの最大手・WPPに次ぐ2位につけている。

デジタルシフトを迫られている多くの顧客企業に対し、戦略・ITコンサルからマーケティングまで、一気通貫でソリューションを提供することが強みだ。2019年には、アメリカの世界的なクリエイティブエージェンシー「Droga5(ドロガファイブ)」も買収した。

そのドロガファイブは2021年にアジア初の拠点を東京に開設するなど、日本でも着々と広告・マーケティングの機能を強化。資生堂や日本ハムなどの大手企業を顧客に抱え、広告賞の獲得実績も豊富だ。

そんなアクセンチュアの弱点が、戦略から担ったマーケティング案件の川下において、SNSなどを用いて“バズらせる力”だった。

アクセンチュアのオペレーションズ コンサルティング本部、大塚健史マネジング・ディレクターは「クライアントがマーケティング全体を任せたくても、広告以外で認知を獲得する機能が弱く、そこだけはPR会社に依頼するケースもあった。人材採用も進めたが、世の中が変化するペースが速く、M&Aに踏み切った」と明かす。

その点でシグナルは、SNSなどによって潜在市場を掘り起こす“川下の企画力”に長けている。例えば食品メーカーから請け負った豆乳のPR案件では、SNSの投稿などで「豆乳を凍らせる」食べ方を訴求。斬新なアレンジが話題を呼び、“バズり”を巻き起こした。

アクセンチュアのオペレーションズ コンサルティング本部、大塚健史マネジング・ディレクター
アクセンチュアの大塚氏は「広告以外で認知を獲得する機能が弱かった」と振り返る(撮影:今井康一)

今後はこうしたシグナルのノウハウを取り込み、マーケティングの戦略部門・アクセンチュア ソングとも連携して、戦略から“バズらせ”まで一気通貫で提供する力を磨く。

アクセンチュアの大塚氏は「これまで、広告やアーンドメディア(口コミなど)といったマーケティングの成果は換算しにくかった。これをすべて定量化し、見える化していきたい」と、データに強いコンサル会社ならではのビジョンを語る。

コンサル軸に事業領域を広げる電通

「もちろん、(電通グループの事業に)あの買収は関係してくる」

アクセンチュアのシグナル買収に対し、危機感を隠さないのが電通グループの関係者だ。国内の4マス(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)広告からの収入が漸減する中、電通グループは世界のエージェンシー売上高で7位にとどまり、アクセンチュアの後塵を拝する。

そこで電通グループは近年、アクセンチュアとは対照的に、コンサルを軸とした非広告領域へ事業を拡張している。2021年、著名なコンサルタントの堀紘一氏が創業した戦略コンサルのドリームインキュベータに20%超出資し、2022年5月には新規事業創出に強いイグニション・ポイントを買収。海外でもコンサル事業を推し進めている。