マクドナルド「どん底→V字回復」の知られざる軌跡

2017年12月期中間(1~6月)決算では、営業利益94億円(前期は4700万円)、純利益107億円(同1.5億円の赤字)という大幅な増益を達成。以後、同社の業績は好調に推移することになる。

日本マクドナルドの連結業績推移(グラフ:決算資料をもとに筆者作成)

同社は2015年4月より、顧客が意見や感想を寄せることができるスマホアプリ「KODO」を導入、顧客の声を集めて店舗環境の改善に努めた。

その後、店舗デザインを刷新したり、商品の受け渡しシステムを変更したり、メニューを改善したり、コーヒーをリニューアルしたりと、さまざまな改革が連続的に打ち出された。一連の改革は、一般顧客の目からも容易にわかるような大胆で目立ったものだった。

広告・キャンペーンにおいても、顧客から名前を募集する「名前募集バーガー」や、人気のハンバーガーを投票で決める「マクドナルド総選挙」など、顧客参加型の企画を相次いで打ち出した。

顧客目線に立ち、顧客の声を聞き、顧客とともに商品、サービスの改善に努めることで、日本マクドナルドの改革は多くの人々から共感され、歓迎されるに至った。最終的に業績回復へとつなげることに成功したのである。

商品、サービス改善と並行して、カサノバ氏のイメージ回復対策が取られている。

2015年2月に行われたた決算発表会見では、カサノバ氏はマクドナルド商品への異物混入トラブルについて、深々と頭を下げて謝罪した。外見も、髪の毛を後ろで束ね、眼鏡もフチなしのものに変えるなど、前回の記者会見時と大きく変わった。テレビの報道番組の中では、カサノバ氏の「ビフォーアフター」を比較して報じるものもあったほど、短期で大きな印象の変化が見られた。

単なる「印象操作」ではなく、実態も伴っていた。カサノバ氏は、47都道府県すべてを回って、顧客、特に小さな子どもを持つ母親から話を聞いた。現場のスタッフとも直接対話を行い、問題点や要望を吸い上げた。

「現場主義」、「ボトムアップ」は日本企業の特長とされているが、カサノバ氏の一連の行動は、「外国からやってきた、日本のことを知らない経営者」というイメージを一新したに違いない。

話題になったマクドナルド「東西対決」(画像:日本マクドナルドHPより)

2017年8月には公式サイトのカサノバ氏のあいさつが突然関西弁に変わっており、大きな話題を呼んだ。

これは、同月に行われたマクドナルドの愛称が「マック」なのか「マクド」なのかをSNSで投票してもらう、「マックなのか?マクドなのか?おいしさ対決!」キャンペーンの一環として行われた施策だった。最終的に関西勢の「マクド」が勝利したことを記念して、カサノバ社長(当時)の公式サイトあいさつ文を関西弁に変えるという、遊び心のある施策を行ったのだ。

人々の親しみと関与度を増すために、さまざまな顧客参加型キャンペーンを行ったが、企業広報とも連携させ、カサノバ社長のイメージアップにもつなげていくという、戦略的かつ、首尾一貫した取り組みであった。

マクドナルドに学ぶ「ピンチをチャンスに変える」秘訣

不祥事をきっかけに、全方位的な改革を行うことで、レピュテーション(評判)と業績の早期回復と向上を実現することができた。2014年~2015年にわたる一連の不祥事がなければ、マクドナルドはここまで業績を伸ばすことはできなかったのではないかと思われる。

そういう意味では、カサノバ氏指揮下の日本マクドナルド社は「ピンチをチャンスに変えた」好事例と言えるだろう

ピンチをチャンスに変えたカサノバ社長(撮影:今井康一)

もちろん、この改革はカサノバ氏ひとりの力でなしえたものとは思えない。社内外の多くのブレインが関わり、一丸となって改革を進めたことで可能になったものに違いない。ただ、経営者にとって、第三者の意見を取り入れて、自らを変えていくことは、そう容易なことではない。だからこそ、多くの企業は不祥事が起きた後、業績が低迷を続けたり、経営者が退任を余儀なくされたりするのだ。