間違った「褒める教育」が子どもの将来を壊す…失敗経験を奪いチャレンジできない大人に

「Getty Images」より

 IT革命が私たちの生活のあらゆる局面に大きな変化をもたらしている。その変化は今後も加速度を増していくと考えられ、私たちは先の読めない時代を生きていると言ってよい。そのような時代の子育てでは、「失敗を恐れずチャレンジする心」を育むことが欠かせない。そのためには、どのようなことに気をつけたらよいのだろうか。

失敗を恐れる子どもや若者

『伸びる子どもは○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版社)

 今の子どもたちは、私たちの子ども時代とはまったく異なる世界を生きている。今の子どもたちが大人として社会に出て行く頃には、世の中はさらに大きく変わっているはずだ。

 そんな時代を生き抜いていかねばならない今の子どもたちには、失敗を恐れずチャレンジする心が必要だ。先が読める変化の乏しい時代なら、失敗を防ぐこともできるだろうが、先の読めない時代には失敗は覚悟の上でなければ何もできない。これからますます先の読めない時代になっていく。失敗を恐れていたら前に進めない。

 だが、このところ失敗を恐れるあまり消極的になり、何ごとにもチャレンジできない若者が多い気がする。もちろん、失敗を恐れる気持ちはだれにもあるものだ。できることなら失敗はしたくない。だれだってそうだろう。でも、多少のリスクを取らないことには冒険はできない。失敗を過度に恐れていては、気持ちが委縮し、思い切ったチャレンジができなくなってしまう。

 私は、40年近く学生たちの相手をしているが、彼らを見ていると、失敗を恐れて何ごとに対しても躊躇する傾向が強まっているように感じる。指示待ち傾向やマニュアル依存傾向が強く、自発的に動かないことが指摘されたりするのも、効率のよさを考えると同時に失敗を避けたいからにほかならない。

 そのような心理傾向について学生たちと毎年のように議論してきた。そこで浮上したのは、失敗経験の乏しさだった。先生の指示に従って動けば間違いないし、勝手に動いて叱られるのは嫌なので、失敗しないように先生の指示を待ち、それに従うようになったのではないか。言われた通りにやっていればうまくいくなら、あえて自分のやり方でチャレンジする必要もないし、それで失敗したらバカみたいだし。彼らの意見の最大公約数は、そのような感じだった。

 これは、まさに面倒見の良いサポート環境の弊害と言ってよい。教育までがサービス産業化し、学校がサポート環境をいかに整えているかを売り物にする動きに対して、私は常々疑問をもち、ときに異議を唱えることもしてきた。失敗を恐れてチャレンジできないというのも、そうした教育環境が生み出す心理傾向なのではないか。

 学校がサービス産業化し、子どもたちをサポートしすぎて、失敗経験を奪ってしまうのなら、家庭教育の中で、親が失敗を恐れない心を育んであげる必要がある。

失敗を恐れない心を育む

 そもそも人生というのは失敗や挫折の連続だ。偉人伝などをみれば、何か偉業を成し遂げた人は、だれもが大きな挫折を経験し、それでもめげずに粘り抜くことによって、なんとか困難を乗り越え、成功を勝ち取っていることがわかる。

 そこで重要なのは、失敗を恐れずにチャレンジすること。そして、万一失敗しても、それを糧にして前に進むことである。

 モチベーションの心理には、成功を目ざす成功追求動機だけでなく、失敗を避けたいという失敗回避動機が絡んでいる。そのせめぎ合いにより個人の行動が決まってくる。思い切ってチャレンジするか、躊躇するか、それは成功追求動機と失敗回避動機の綱引きで決まる。ゆえに、積極的にチャレンジする心をもつためには、失敗回避動機を多少とも和らげることが必要だ。