発達障害をどう理解すればよいのか?障害者ではなく、独特のスタイルを持った別の「種族」

本田 40年くらい前に、いろんな精神障害の分け方を試みた時代があって、そのときは心理的な発達の障害という言葉を使ったこともありました。そこに含められていたものは、実は今我々が言っている「発達障害」とはちょっとずれています。もともと精神面での子どもの発達の問題というと、昔は「精神薄弱」ひとつでした。

 ところが、IQが測定できるようになったからですが、IQでは異常値が出ないのに発達に偏りがあるケースが出てきた。そのひとつは自閉症の系統で、もうひとつは微細脳障害です。で、典型的な自閉症と、アスペルガー症候群とその他の仲間を、一時期「広汎性発達障害」と呼んでいました。広汎性という言葉が誤解を招くんですが、この広汎性発達障害は、2013年から自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれています。スペクトラムとは「多様に見えるものの、同じ仲間と見なせる集合体」という意味です。

 さらに、微細脳機能障害が、注意欠如・多動症(ADHD)と学習障害(LD)とに分かれました。ですから現在は、自閉症という言葉とアスペルガー症候群という言葉、広汎性発達障害という言葉も、ぼくたちが使っている診断分類からはなくなっています。

【確認中/前後編の前編】発達障害をどう理解すればよいのか?障害者ではなく、独特のスタイルを持った別の「種族」の画像3
2018年に出版された『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SB新書)。

大人になってからの発達障害診断は難しい

――ASD、ADHD、LDの違いについて教えていただけますか。

本田 自閉スペクトラム症(ASD)には「空気が読めない」「対人関係が苦手」「こだわりが強い」という特徴があります。発達障害のなかでも、周囲の困り具合と本人の困り具合が大きいのがASDです。ASDは「対人関係」という、現代社会で生きていくうえで、かなり重要視されているスキルに課題を抱えているからです。

 注意欠如・多動症(ADHD)には「落ち着きがない」「うっかりミスが多い」という特徴がありますが、ADHDだけでは生活に支障を来すことはありません。学習障害(LD)は知的発達の遅れではなく、「読む」「書く」「計算する」のうち、ひとつまたは複数が苦手という特徴があります。これらの特徴は「個性」と捉えられたり、「ちょっと変わった人」と思われれば、生活に支障を来すことはありません。

――発達障害の診断は難しいのですか。

本田 子どものうちに診断がつけばいいのですが、大人になってから鬱病や不安症などの二次障害が出てしまうと、初診で発達障害と診断するのは難しいと思います。発達障害以外にも、パーソナリティー障害や統合失調症でも同じような二次障害が見られるからです。また、発達障害の専門医の数が限られているのも、診断がつきにくい原因のひとつです。

子どもの頃に診断を受けたほうが結果としてハッピー

――「大人の発達障害」がいま注目されるようになったのはどうしてですか。

本田 発達障害は進行して死ぬような病気や障害ではありませんが、先天性の障害なので、一生治ることはありません。問題なのは、学童期をすり抜けてしまうことなんです。発達障害というのは、ある特性を持っています。生まれつき脳になんらかのバリエーション(変異)を持っていると考えるべきでしょう。このバリエーションを持っているのは少数派なので、多数派である普通の人向けに作られている社会構造のなかでは、摩擦が生じてしまうわけです。

 その摩擦をうまく自分で解決する力を身につけた人は、普通に社会人として生活していけるのですが、それができないと、普通の人よりも高い確率で摩擦が起こってしまう。それが子どもの頃に起こるか、大人になってから起こるかの違いも大きい。子どもの頃に起これば、いじめや不登校という形で現れたりしますが、大人になってから現れると、職場に居づらくなって、仕事を転々としたり、引きこもりになったりするので、大人の発達障害のほうが、対処することが難しいのです。