高学歴の発達障害者がつまずく会社、出世する会社…「クセの強い人」を生かす社会を目指す

――歴史上の偉人や有名人、仕事で成功した人たちのなかにも発達障害だったといわれている人がいますが、それは本当なんでしょうか。

本田 現在であればなんらかの発達障害と診断されたかもしれない人はいると思います。その人の何か特定の部分だけを眺めてみれば、そういう見方も正しいとは思います。でも、発達障害をネガティブに見るのではなく、ポジティブに見ることができるとよいのです。発達障害のなかでも、この特徴があるとあまり社会適応がよくない症状というのがあります。ASDなら「何かに対する強いこだわり」「その場の空気を読むことが苦手」、ADHDだと「ミスが多い」「落ち着きがない」などの特徴で、これらがあると社会に出ると辛くなりやすいと思います。でも逆に、ASDの「こだわり」とか、ADHDの「アクティブなところ」は、決してマイナスではありません。とはいえ、みんながそれで成功するという保証はないですけどね。

“頭のよい”発達障害当事者は、高学歴を獲得しても社会に出てつまずく

――家族や会社など、身近に発達障害の人がいたら、どのように対処すればいいのですか。

本田 家族の場合だと、自分のお子さんが発達障害ではないかというケースが多いと思います。今はすべての都道府県に最低1カ所、発達障害者支援センターがあるので、相談してみるといいでしょう。

――自分の子どもが発達障害だとわかったら、子育てではどんなことに注意すればいいのでしょうか。

本田 わが国で一般的によいとされる子育てのやり方には、発達障害の子どもにとってはよいと言えないものが含まれます。なかでも、口頭で言っただけでピンとくるようにさせたいという育て方は、情報がうまく伝わらないので、発達障害を抱えた子どもにとってはネグレクトされたのと同じような状態になってしまいます。逆に過干渉でいろんなことを教え込もうとするのも、発達障害のお子さんにはストレスが多すぎます。

 それからもうひとつ、今の日本の社会って学歴社会ですが、発達障害のお子さんのなかに勉強のできる子がいるんですね。そうすると、勉強していい成績を取って、いい大学を卒業したらいい会社に就職ができてなんとかなる……と思いがちなんです。でも実際は、それで失敗する人が多いんです。社会に出て必要なことは、学校の勉強だけでは学べないのです。発達障害の子どもさんたちには、「療育」といって、ひとりひとりの特性に応じて日常生活に必要な力を身につけるための教育的なプログラムが行われていますので、そうした支援を積極的に利用するとよいと思います。

――がんの早期発見、早期治療みたいなものですね。もし早期発見、早期治療ができずに社会に出てしまったらどうなるでしょうか。日本の会社だと、発達障害の人は相当ストレスを抱え込むと思うのですが。

本田 大人の発達障害の人のいちばんの課題は、就職と仕事です。日本人は仕事にストレスはつきもので、それを乗り越えて向上するのが当たり前だと思い込んでいる。やった仕事に対する対価を得るのが労働ですが、日本の会社の多くは、社員に労働力の提供だけでなく、「向上のノルマ」まで要求しているからです。発達障害のある人は、その期待によって、よりストレスを抱えることになります。心身に不調を来たして、なかには自ら命を絶つ人も出てくる。でも、仕事は命を削ってまでするものではありませんよね。それは発達障害があろうとなかろうと同じです。私は仕事の目的は遊ぶためのお金を稼ぐことだと思っています。自分ができる範囲の仕事をきちんとやって、そこそこのお金をもらえばいいんです。

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2018年に出版された『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(SB新書)。