「“思いつき経営”が苦境の元凶」 幸楽苑、「いきなり!ステーキ」への業態転換が裏目に

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幸楽苑の店舗(「Wikipedia」より/ITA-ATU)

 ラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングス(HD)は6月18日に開催した定時株主総会で、創業者で50年以上経営に携わってきた新井田傳(にいだつたえ、77)氏が代表取締役会長を退任した。設立50周年を節目に「経営の第一線を退きたい」との申し出があったそうだ。退任後は創業者相談役として息子の昇社長(47)をサポートする。

 経営再建に向けて正社員の6%にあたる約50人の希望退職を募っていたが、5月30日までに48人の応募があった。併せて会長の役員報酬を3カ月間ゼロ、社長は同50%減とした。

 幸楽苑HDの業績はコロナ禍で客足の戻りが鈍く、21年3月期の売上高は265億円(20年3月期比30.5%減)、営業損益は17億円の赤字(同6.6億円の黒字)、最終損益は8.4億円の赤字(同6.7億円赤字)と2期連続の最終赤字となった。赤字幅は拡大した。

 3カ月ごとの最終損益の推移をみると、コロナが直撃した20年1~3月は5.8億円の赤字。同年4~6月が7.4億円の赤字で最悪。その後、売り上げが若干回復し赤字幅は縮小し、21年1~3月は2.0億円の黒字に転換した。

 21年4月の既存店売り上げは前年同月比35.8%増、同5月は同14.2%増と持ち直した。前年実績は緊急事態宣言によって19年に比べて4月が50%減、5月が38%減だった反動が大きいが、コロナ前の19年4月に比べると4月の売り上げは7割の水準にとどまる。

 人件費を削減するため年内にも配膳ロボットを100店以上に導入。客がタブレットで注文するとロボットが席に料理を運ぶ。持ち帰りや宅配の強化を進め、22年3月期は売り上げ288億円(21年3月期比8.4%増)を目指す。最終損益は2.5億円の黒字と3期ぶりの黒字転換を計画している。

「いきなり!ステーキ」への業態転換が大失敗

 幸楽苑は1954年、電力会社を定年退職した新井田司氏が福島県会津若松市で食堂を開業したのが始まりだ。傳氏が18歳の時、父の食堂を引き継ぎ、上京して修行。修行先の1つだった「幸楽飯店」から2文字もらい、帰郷後、幸楽苑を開業する。70年11月、株式会社に改組した。

 日本におけるチェーンストア理論の第一人者であるペガサスクラブの渥美俊一氏のチェーン展開の教えを忠実に実践。ラーメンチェーンの幸楽苑を展開し、2003年、北海道・東北の外食企業として初めて東証1部に上場を果たした。傳氏は業界最大手に育てたが、拡大路線が裏目に出て業績が悪化。長男の昇氏に社長の椅子を譲った。

 新井田昇社長は創業家の3代目。97年、慶應義塾大学を卒業後、三菱商事に入社。2003年、幸楽苑HDに入社して海外事業を担当。18年11月、父の後を継いで社長になった。

 19年10月、台風19号の影響を受け既存店売り上げは30.7%減と落ち込んだ。10月12日、日本に上陸した台風19号は土砂災害や河川の氾濫などを引き起こした。東日本を中心に各地に甚大な被害をもたらし、「令和元年東日本台風」と命名された。

 幸楽苑HDは福島県郡山市にある工場が冠水の被害に遭い、10月13日に操業を停止。東北を中心に全店舗のほぼ半数にあたる240店が休業に追い込まれた。翌11月初旬、被災後1カ月で全店通常営業を再開した。だが、客足は戻らなかった。台風19号の経験を踏まえ、「収益重視型経営」へと加速する。具体的には19年12月~20年4月にかけて全店舗の1割にあたる51店舗を閉鎖。“ラーメン一本足打法”からの脱却を目指し、業態転換を図った。

 3代目が成長戦略の柱に置いたのが「いきなり!ステーキ」への転換だった。2017年、運営会社のペッパーフードサービスとフランチャイズ(FC)契約を結び、ラーメン店をステーキ店に転換、16店舗を出店した。だが、「いきなり!ステーキ」の勢いは失速する。極度の不振に陥ったところに台風9号で甚大な被害を被った。

「いきなり!ステーキ」への業態転換は大失敗だった。そこにコロナ禍が追い打ちをかけ、経営は迷走する。19年3月末に498店あったラーメン店は21年3月末に411店に減少。「いきなり!ステーキ」は16店から同4店に減らした。

 焼肉店「焼肉ライク」(21年3月末10店舗)、からあげ店「からやま」(同7店舗)、名古屋名物の辛さが売りの鍋料理店「赤から」(同5店舗)などが次のターゲットだ。ブームに乗って勢いがある外食店のFC展開を進め、一気に収益を高める促成事業である。ブームが去ると経営が一気に傾くリスクを常に抱え込む。「いきなり!ステーキ」のFC店は悪しき前例となった。業態転換はリスクと背中合わせなのだ。

 幸楽苑HDの業績低迷の原因はコロナだけではなく、新井田昇社長の「“思いつき経営”が苦境の元凶」(関係筋)との指摘もある。「創業者で父親の傳会長が第一線から退き、昇社長のワンマン経営が一段と強まる。社長の周囲にいるのはイエスマンばかり」(関係筋)。希望退職に応じた幹部社員の一人は「イワシと同じで頭から腐る」と呟く。

(文=編集部)