総合商社、未曾有の利益8千億円めぐる攻防…三菱商事、伊藤忠の首位を絶対阻止か

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三菱商事ビルディング(「Wikipedia」より)

 商社大手7社の2022年3月期の連結純利益は過去最高益となる。6年前の“資源バブル”後の低迷を経て非資源分野を強化したのが実り、資源の国際市況高騰の追い風にも乗った。

 伊藤忠商事(岡藤正広会長CEO)、三菱商事(垣内威彦社長)、三井物産(堀健一社長)による三つ巴の首位争いになる。通期の最終損益の予想は伊藤忠が7500億円、商事が7400億円、物産が7200億円と7000億円台で、ほぼ横並びだが、「8000億円の攻防になる公算大だ」(商社担当のアナリスト)。伊藤忠が首位になれば2年連続の快挙となる。

 関係者によると、水面下で激しいさや当てが繰り広げられた。三菱商事の首脳は「伊藤忠の最終利益7500億円は後出しジャンケンだ」と不満を露わにしているという。決算発表の数日前に決算予想の報道が出た際の数字は6700億円だったが、数日で800億円増額したというのだ。

「物産の7200億円、伊藤忠の6700億円という予想数字を踏まえたうえで7400億円という数字を弾き出した三菱商事は、『トップに立てる』と信じて疑わなかったのだろう」(大手商社CFO)

 実際、三菱商事は「目いっぱい利益を出せば8000億円は可能だった」(関係者)というのだ。「600億円はのりしろ(バッファー)として手持ちしている」(同)。ところが伊藤忠は三菱商事の裏をかいて、7500億円という数字を出してきた。「情報戦で伊藤忠に一日の長があるということだ」(前出の商社担当のアナリスト)。

「来春のトップ交代を控えた商事は、伊藤忠の後塵を拝したことが我慢ならないのだ。垣内社長の花道づくりが台なしになった。社長交代の発表は早ければ年内。遅くとも22年1月だろう。第3四半期の決算の公表は2月になるので『三菱首位奪還』という既成事実をつくれなくなってしまった」(貿易業界首脳)

 三井物産も同様だ。第1四半期段階でトップに立ったのに、伊藤忠、三菱商事の後塵を拝した。11月5日の伊藤忠、三菱商事の決算発表の予定時間はこうだった。東京証券取引所の適時開示時間は伊藤忠が13時、三菱商事は14時。Zoomでのネット会見を適時時間から15分遅れで始めている。15分間は開示資料に記者が目を通す時間になっているということらしい。だから、伊藤忠は「後出しジャンケンではない。時間の流れをきちんと見てほしい」(幹部)と主張する。

三井物産は大幅に上方修正

 商社リーグ利益トップを目指し、順位は四半期ごとに目まぐるしく交代した。期初段階での22年3月期の純利益予想は伊藤忠5500億円、三井物産4600億円、三菱商事3800億円の順だった。第1四半期段階(21年4~6月決算)では、伊藤忠と三菱商事が見通しを据え置いたのに対し、鉄鉱石と銅価格の上昇で資源事業の採算が大きく改善した三井物産は大幅に上方修正した。商社業界で過去最高の6400億円を見込むとする超強気の予想を掲げ、トップに躍り出た。 

 第2四半期(21年4~9月の累計)は、空前の上方修正ラッシュとなった。伊藤忠は通期の利益を前期比1.9倍の7500億円に引き上げた。当初予想を2000億円上回り、2期ぶりに最高益を更新する。金属資源が伸びるほか、全事業部門で増益を確保する。

 商事は前期比4.3倍の7400億円と、従来予想から3600億円も引き上げた。19年3月期の5907億円以来、3期ぶりに過去最高益を更新する。物産は第1四半期の数字に800億円上乗せして、前期比2.1倍の7200億円とした。

 上方修正合戦の末に、順位が変動した。伊藤忠がトップに立ち、商事は2位、第1四半期段階でトップだった物産は3位に後退した。3社とも商社トップの座を目指し、再増額の動きを見せている。ライバルの動向をにらみながら、さらなる増益を視野に入れている。第3四半期(21年4~12月累計)決算で、通期の最終利益として、どんな数字を出してくるかが見どころだ。22年2月に公表されることになるこの数字で、ほぼ順位は決まるとみられている。

 商社トップの座は8000億円の大台をめぐる、未曽有の戦いになることが見込まれる。各社のトップ、広報部門による情報のリークがさらに盛んになるだろう。欧州やアジアでコロナ禍が再燃している。オミクロン株が出現し、「年明け以降の資源価格がどうなるかは神のみぞ知るだ」(大手商社の首脳)。

 非資源の稼ぎ頭は伊藤忠である。その分、岡藤CEOは余裕がありそうだが、必勝の気構えの商事は侮れない。

(文=編集部)