“買い物難民”300万人の衝撃…デジタルサイネージで販売・消費者双方に革命?

 その場合のメリットを同社は、こう説明する。

(1)実店舗である「ハブ店舗」運営の延長で、「サテライト店舗」の運営ができる

(2)店舗在庫で運営を回すため、仕入れ調達業務に大きな影響はない

(3)実店舗での重労働(運搬・陳列・清掃等)をサテライト店舗は軽減できる

 消費者の立場では、実店舗の信頼性があるほうが安心して買い物ができそうだ。

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快適な実店舗の運営にはバックヤードの作業も欠かせない(写真=PIXTA)

地場スーパーと組み、東京都八王子市で実証実験

 2021年10月下旬から12月末にかけて、東京都八王子市で実証実験を行った。実験場所は「多摩ニュータウン松ケ谷団地内の集会所」(UR管理)で、関係者の許可を得てS_martを設置。同団地は周囲に生活用品店が少ない買い物困難エリアだ。

 東京都稲城市、多摩市、八王子市、町田市にまたがる多摩ニュータウン(約4割が八王子市域)は、昭和40年代初めに開発計画や造成が始まった日本初のニュータウンとして知られる。当初は“団地族”、“ニューファミリー”と呼ばれた、夫婦と子どもの世帯が多く入居。近隣に大学などの教育機関も移転して地域は発展した。だが、時代とともに住民の高齢化も進んだ。

 今回の実証実験では、集会所で注文を受け、店舗スタッフが最寄りのスーパーまで買い物にいく手法を採用した。商品代以外の配送料は一律500円(数量問わず)だった。

「私が現場を視察した際は、買い物客はそう多くありませんでしたが、エレベーターがない団地なので高齢居住者は喜んで利用していました」と、運営側の関係者は話す。

 年齢を感じさせないアクティブなシニアも増えたが、人によって行動範囲は違う。年をとって身体機能が衰えた高齢者には、日用品や食品の買い物は結構な負担となる。

消費者像は「高齢者と育児中のママ」、だが……

 今回の実証実験場所に選んだのは「団地」。ということは、コアターゲットは高齢者なのだろうか。

「特に、高齢の方と幼いお子さんを育児中のママをイメージしています。

 実は、これらの層以外に『買い物に困る人』は想像以上に多くおられます。当社の商圏分析による調査結果によれば、日本では1km圏内に3000人以上の住民がいるのに、生活に必要な食品・日用品の小売店がないエリアが約700地区あります。その地区の住民の合計は、約300万人になっているのです」(同)

 コロナ禍で別の意識も芽生えた。藤森さんが続ける。

「“他の人が触った商品を買いたくない”心理が働き、実店舗でも衛生管理の負担が多くなっています」

 以前に行った別の取材では、「カレールーを煮込む時に野菜飲料を入れて味付けする人も増えました。野菜を洗って切る時間短縮だけでなく、他の人が触れた野菜を避けたい意識もあるようです」という話を聞いた。ここにも「非接触」意識の高まりがあるようだ。

 同社は各地での商談も進めている。設置場所はたとえば「病院内の売店」(長野県)、「デイサービス施設内」(埼玉県)、「CD/DVD販売の自社店舗内」(東京都)などだという。

課題は残るが、利用者の期待は大きい

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全国各地で気軽に利用される自販機のような存在になるか

 今後どうブラッシュアップして、本格展開につなげる予定なのか。

「本稼働前ですが、ユーザー事業者と利用者の方からは『こんなものを待っていた』という声を頂き、手ごたえを感じています。

 課題は、目標としている利用者数(非公表)と売り上げの確保に、想定以上の時間がかかる点です。これは、ユーザーである小売事業者への訴求次第で解決できますが、同時に『どれだけ早く、慣れてもらうか』に尽きるでしょう。使い勝手をブラッシュアップし、高齢者や幼児でもすぐに使えるサービスとして、本稼働に備えたいと思います」(同)