貸会議室のTKP、なぜ経営方針が真逆のアパホテルと提携?「持たざる経営」の真髄

TKP代表取締役社長の河野貴輝氏
TKP代表取締役社長の河野貴輝氏

 貸会議室大手のティーケーピー(以下、TKP)代表取締役社長の河野貴輝氏は、2005年8月に同社を設立後、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災による会議室利用の減少など、さまざまな危機に見舞われるも、「持たざる経営」で乗り越えてきた。アパホテルとの業務提携やシェアオフィスサービスを展開する日本リージャスの子会社化などを経て、今後もシナジー効果を発揮できる企業との提携やM&Aを積極的に進める方針だ。TKPは「持たざる経営」でどのようなビジネスモデルを描いているのか。河野氏に話を聞いた。

「所有=縛られる」というデメリット

――TKPは「持たざる経営」によって成長してきました。

河野貴輝氏(以下、河野) たとえば家について考えたとき、持ち家を購入した場合は、基本的にはそこでずっと暮らすことになります。しかし、賃貸であれば、転職やお子さんが生まれるなどのライフイベントに応じてフレキシブルに対応することができます。これこそが「持たざる経営」の真髄であり、自由度が高まる生き方ともいえます。所有するということは固定されることにつながり、人生が縛られるというデメリットが生まれてしまうのです。

――家を持つか持たざるか、というのは永遠のテーマです。

河野 経済力のある人が所有することと、お金のない人が多額の借金をして所有することには、大きな違いがあります。不動産業者は将来の家賃と住宅ローンの返済額を比較して「トータルで考えれば買った方がお得ですよ」と勧めますが、それは目先の話にとらわれています。人生は何が起こるかわかりません。大地震で家が崩壊する可能性もあれば、会社が倒産してローンを払えなくなることもあるでしょう。そう考えると、現預金などの資産を確保しながら、身軽に過ごす方が健全であり、“持たざる”方がいいでしょう。

マンション購入の失敗体験とは

――河野社長が「持たざる経営」に行きついたのは、なぜなのでしょうか。

河野 慶應義塾大学商学部を卒業後、伊藤忠商事に入社し、為替証券部で1兆円の資産を運用していました。その後、カブドットコム証券(現・auカブコム証券)でネット証券の立ち上げに携わり、イーバンク銀行(現・楽天銀行) では執行役員営業本部長などを歴任しました。そこで、お金がどのように流れていくかを見ていて、個人が何かを所有して運用することは非常にリスクがあると感じていました。

 実は、私自身にも失敗があります。会社員時代に表参道の3LDKのマンションを購入したのですが、これは結果的に不動産会社が儲かっただけでした。ここでは詳細は控えますが、そうした経験もあり、起業するときは「持たざる経営」を目指したのです。

――なぜ起業に至ったのでしょうか。

河野 イーバンク時代から、雇われではなく、リスクを取ってビジネスをしたいと思っていました。また、当時はベンチャーとはいいながら、実態が伴っていない企業も多かった。そこで、世の中から認められるベンチャー企業を立ち上げたい、という思いが湧き出てきたのです。

経営方針が真逆のアパホテルとFC契約

――ちなみにアパグループの元谷外志雄代表は「持つ経営」が持論ですが、お二人は仲が良いそうですね。

河野 ホテルは新しく建てる必要があるため、必然的に「持つ経営」になります。一方、貸会議室はもともとあったオフィスビルを転用することができるため、「持たざる経営」が可能になるのです。つまり、元谷代表と私ではアプローチが異なるわけです。ちなみに、アパホテルの元谷芙美子社長にはTKPの社外取締役を務めていただいており、家族ぐるみのお付き合いをしています。

――そのアパホテルとはフランチャイズ契約を結んでいます。

河野 アパホテルが2005年12月に西武鉄道から旧幕張プリンスホテルを買収し、TKPが社員食堂や更衣室を貸会議室として運営したところから、提携がスタートしました。当初は、アパグループが買収したホテルの会議室や宴会場、レストランをTKPが運営し、そのうちベッドメイキングもTKPが担うことになりました。その後、札幌のホテルを2棟借り、TKPがアパホテルとして運営しました。このTKPのアパホテルは会議・イベント会場を備えており、今や全国で10棟に拡大しています。TKPは、会議室とホテルをセットで販売しています。

※後編へ続く