YouTubeでは代替は無理…ニコ動「凋落論」の嘘、稼ぎやすさでクリエイター回帰

資金力の差でYouTubeに完敗も

 ニコニコ動画の低迷には、動画サイトの王者であるYouTubeの存在が大きく関係しているという。

「ニコニコ動画は、オタク趣味の人たちに広く訴求していたプラットフォームであり、そうした顧客に向けた宣伝を続けてきた歴史があります。大規模なエキスポイベントである『ニコニコ超会議』などは、明らかにそういったコアなファン向けです。一方のYouTubeはテレビに替わる存在になるべく、マスに向けた宣伝が主でした。例えばイメージ健全化のために、自動プログラムなどを積極的に導入し、不健全なコンテンツを次々と削除したことなどが挙げられるでしょう。ちなみに、そうした莫大な資金を要する大規模なシステムを導入できるのは、親会社であるGoogleの資金力ゆえです。

 ニコニコ動画はサイト上の使い勝手の改善で、YouTubeに遅れをとりがちと指摘されることも多く、それはそれで納得できる部分もあるのですが、親会社の資金力の差からくる対応速度も考慮に入れたほうがいいでしょう」(同)

 そんな資金力の差は「視聴者層の広さと数」に如実に表れている。

「YouTubeの視聴者が増加するにつれて、ニコニコ動画で活動していた一部の動画クリエイターたちが主戦場をYouTubeに移してしまいました。その理由は、YouTubeが2008年から開始した、動画の再生数で収益を得られる収益化プログラム。視聴者の増加に伴い、クリエイターが人気になれば一攫千金も夢ではなかったわけです。ニコニコ動画も2011年から収益化プログラムを開始していますが、やはり話題性という面でYouTubeにだいぶ先をいかれてしまった感がありました。ここがニコニコ動画低迷の大きなターニングポイントになっていましたね」(同)

 では、ニコニコ動画はこのままYouTubeに負け続け、いずれはサービス終了に陥ってしまうのだろうか。

「今からYouTubeに勝つということは現実的ではありませんが、だからといってサービス終了ということにはならないでしょう。プレミアム会員がピーク時の256万人からはだいぶ減ってしまっているものの、それでもお金を払ってでも観たいというコアなファンを100万人以上も抱えているサービスというのは、客観的に考えてすごいですよね。ニコニコにしかないアングラな空気感というのは、YouTubeでは替えが効かないと思います。

 加えて、今YouTubeよりもニコニコ動画のほうが稼ぎやすいという風潮も強まり、徐々にクリエイターが戻りつつあるのにも注目です。YouTubeは過去1年間の総再生時間が4000時間以上を超え、なおかつチャンネル登録者が1000人以上になって初めて収益化の申請ができるようになります。それに対してニコニコ動画で収益化するために必要なのは、プレミアム会員であること、もしくは本人確認済みの一般会員であることだけ。YouTubeのハードルの高さとは比べものにならないほど、いい意味でハードルが低いのです。

 確かに、YouTubeに比べて視聴者数が少ないので爆発的に儲けるのは難しいですが、やりようによってはYouTubeより儲かるチャンスはあると思います。YouTubeは話題性などを考慮したAIの選別で動画がおすすめにあがるか否かが重要で、これが儲かるポイントを分けると指摘されています。つまり動画数が多すぎるがゆえにチャンスを掴める人が限られてしまう。一方のニコニコ動画は、クリエイターと視聴者が自由に動画につけられるタグという機能があり、人気のタグをつければ高い検索性を獲得でき、視聴者の目につきやすいというメリットがあるからです」(同)

 関連サービスの終了が相次ぐなど苦境に立たされるニコニコ動画だが、独自の個性とそれを愛する根強いファンの支えにより、まだまだ存続し続けそうだ。

(文=A4studio、協力=井上トシユキ/ITジャーナリスト)