起業コストが劇的に低下した日本で起業ブームが起きない理由…今、成功する領域

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「gettyimages」より

 2010年代前半からソーシャルメディア、スマートフォン、クラウドなどのIT技術の普及が後押しとなり、近年では「起業ブームが訪れている」ともいわれる一方で、1990年代から2000年代にかけての第3次ベンチャーブームに比べれば、今の状況はブームと呼べるほどの状況ではないとの声もある。かつての起業ブームにはインターネットの普及を背景に、旧ライブドアやサイバーエージェントなどの多くのIT企業が誕生するほどの勢いがあった。その時と比べると、今の起業ブームは派手ではないかもしれないが、成功した企業は多数存在しており、例えばがんを早期発見できる検査サービス「N-NOSE」を開発して2016年の創業からわずか5年で企業の評価額が1,000億円を超える企業となった「HIROTSUバイオサイエンス」、12年に設立して19年8月には総額31億円もの資金調達を実施した「スマートニュース」などが挙げられる。

 果たして、今の日本は起業ブームといえるような状況なのだろうか。起業コンサルティングを行うV-Spiritsグループの中野裕哲氏に解説してもらう。

開業率から考えれば「起業ブーム」とはいえない

 今の日本の状況を見た場合、起業ブームが到来しているといえるのだろうか。

「客観的なデータとして、日本では開業率(当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数/前年度末の適用事業所数で示す割合)という数字があります。09年から20年のデータを見ると、どの年も5%前後で推移をしており、ブームといえるほどの数字とはいえないでしょう。ちなみに、海外ではイギリスが10~12%、フランス、ドイツ、アメリカも10%程度と、日本の倍程度の数字になっています。ただ、開業率は雇用保険に入っている会社をベースに計算しているため、人を雇っていないような会社や、個人事業主はカウントされていません。肌感覚としては、個人事業主やフリーランスの人は増えている印象なので、起業ブームといわれているのはその点が大きいのかもしれません」(中野氏)

 個人事業主やフリーランスが増えているということは、広い意味でいえば人々の起業熱が高まっているということなのだろうか。

「日本の開業率が欧米と比べて低いということもあり、国は起業しやすい環境を作ってきています。法律が改正されて株式会社が資本金1円でも設立できるようになったのはその一例です。また、5、6年前から始まった副業解禁の動きによって、それまで禁止していた副業を認める企業が増えてきています。本業を持ちながら、副業で個人事業主やフリーランスとして働きやすくなったのも起業熱が高まった一因だと考えられます。国の支援、企業の方針転換が、個人の起業に対する意識を変えたといえるのではないでしょうか」(同)

 これまで起業に無関心だった層が、国や会社の方針転換によって、起業に目を向けるようになった。では、具体的にどのような環境の変化が起業熱の高まりに影響を与えたのだろうか。

「会社設立の費用が下がったことや、副業解禁といったこと以外に、起業に関するコストが下がっているのが起業熱の高まりを生んでいると考えています。具体的には下記のような例があげられるでしょう。

・インターネットの普及で、オフィスを借りなくても自宅で働けるようになった
・広告・宣伝に費用をかけなくてもSNSやYouTubeで集客が可能になった
・人を雇わなくても、フリーランス同士で組んで大きな仕事も可能になった
・バーチャルオフィスやECサイトで、実店舗を持たなくてもビジネスが可能になった
・クラウドソーシングが広がり、仕事の受注のハードルが下がった