プーマ、なぜ箱根駅伝での着用率0%→10%超に躍進?緻密かつ地道な戦略

プーマ「FAST-R NITRO<TM> ELITE 2」(左)、「DEVIATE NITRO<TM> ELITE 3」
プーマ「FAST-R NITRO ELITE 2」(左)、「DEVIATE NITRO ELITE 3」

 国内でランニングシューズといえばナイキ、アディダス、アシックスの存在感が強く、箱根駅伝でも3社が着用率の上位を占めてきた。対するプーマはサッカーなど球技用シューズに強みがあり、2021年の箱根駅伝までプーマ製のシューズを使用する選手は居なかった。しかし22年以降、着用選手が増え、25年の第101回箱根駅伝では25人が着用した。着用率は10%を超えたことになる。選手に新しい靴を履かせるのは難しいはずだが、なぜ狙い通り向上できたのだろうか。プーマジャパンのランニング・カテゴリーリーダー兼Head of Salesである今井健司氏に取材し、近年の取り組みを聞いた。

着用選手は0から25人に増加

 箱根駅伝で選手の着用率が高いのはナイキ、アディダス、アシックスの3社だが、近年、プーマが頭角を現している。21年まで着用選手は0人だったものの、翌年から1→7→20と増え、冒頭の通り今年の箱根駅伝では25人が着用した。着用率は上位3社につぐ4位だ。今年の出場校のなかでプーマは、立教大学、城西大学とパートナー契約を締結した。非出場校では東京農業大学と締結している。

 プーマはグローバル戦略として21年以降、パフォーマンスランニング分野を強化する方針をとっている。国別の戦略は各国の部門に委ねられており、日本ではマラソンで圧倒的な認知度を有する箱根駅伝に焦点を定め、選手の着用率向上を具体的な目標とした。当初の狙い通り、着用率の向上が達成されたという訳だ。

 だが一般的にパートナー契約を結ぶと、大学チームにおいて自社製シューズの着用率向上を推進できるが、最終的な判断は選手にゆだねられている。昔から他社製シューズを履く選手にシューズの変更を強制することはできない。プーマはどのようにして、製品の魅力を選手に伝えたのだろうか。

「大前提としてプロダクトが良くないと認められません。パートナー大学の選手から得られるパフォーマンスを商品開発に反映し、改善に努めてきました。シューズにはクッショニングに特化した『NITROFOAM<TM>』素材を使用し、軽量性と高反発を実現しています」(今井健司氏)

 駅伝に先駆けて同社は24年11月に「EKIDEN GLOW PACK」の5ラインナップを発売。大会では選手の多くが「DEVIATE NITRO<TM> ELITE 3」を着用した。

「PUMA RUNNING HOUSE」を選手との接点に

 商品パフォーマンスの改善は他社も行ってきたはずだ。その状況下でシェア0%から10%を超えるのは簡単ではない。プーマは選手との接点の場を設け他社との差別化を図った。

「妙高(新潟)、翌年には菅平(長野)と、2年連続で約1カ月限定の『PUMA RUNNING HOUSE』を設置しました。プーマ ランニング ハウスにはラウンジやゲームスペース、高酸素マシンなどを設置し、選手たちがくつろげるスペースを用意しました。そこでは弊社のシューズも置き、選手がトライできるようにしたのです」(同)

 プーマ ランニング ハウス(PUMA RUNNING HOUSE)にはプーマの担当者も常駐し、選手とコミュニケーションを取る機会を設けた。妙高と菅平はマラソンの合宿がよく行われる場所だ。プーマ ランニング ハウスではパートナー契約の大学だけではなく、周辺に合宿に来る大学や高校の選手も受け入れたという。2024年には延べ1000人以上の選手が訪れた。こうした施策が功を奏してか、25年の箱根駅伝では立教・城西大学以外の選手もプーマ製のシューズを着用した。