したがって重篤な病気やケガに対しては、最寄りの港に緊急寄港をして、医療機関に搬送する段取りを取る。あるいは管区の海上保安部に連絡を入れ、医師・看護師が乗った巡視船やヘリコプターに乗せて治療を行う「洋上救急」という制度もあるが、「航海中は全てがサバイバルでありその点では遠洋漁師の生きる力は逞しい」(馬上氏)
一方、給与水準は巷間に流布するように比較的高い。センターが入社時から入社数年目までの年収を調べたところ、350万円から600万円の間に分布している。国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、民間給与所得者の平均年収は460万円。平均年齢は47歳。遠洋マグロ漁業の新規就業者は20歳から35歳が多いので、年齢に比して給与水準は高い。しかも10カ月の航海中は、家賃、食費、公共料金、遊興費など生活費がかからない。ゲームの課金などで無駄遣いをしなければ、給与はまるまる貯まっていく。
馬上氏は「奨学金を借りている人は2回の航海を経れば完済できると思う。そうすれば次に進むことができる」と述べる通り、日本学生支援機構の貸与型奨学金利用者の奨学金借入総額は平均約313万円(大学生)だから、2回の航海で十分に完済できる。
ただ、ネット上に飛び交う「20代で年収1000万円を稼げる」という一獲千金には訳があるようだ。
「高齢の船長が引退した場合、海技士資格を持った20代の船員を船長に起用すれば、20代で年収1000万円を稼げるかもしれない。本来ある程度経験を積んだ30~40代がいればその人を船長に起用するが、その年代がおらず20代を起用せざるを得ない実態もある。乗船歴が短く経験の浅い若者を船長に就かせることは、どう考えても危険である」(馬上氏)
向こう5~10年後に、70代の漁労長はじめ幹部船員の多くが第一線を退くだろうが、後に続く体制の整備には働き方改革や労働環境の改善を図り定着できる職場作りが鍵になるだろう。
(文=Business Journal編集部)