マグロ遠洋漁業、働き方改革への挑戦…若者の就業者増加に課題、水産業を左右

「日本人が辞めれば外国人でカバーすればよいという人事の体質が、十数年をかけてできあがってしまった。以前から私たちは日本人の雇用を増やすことを提言しているが、外国人のほう辞めずに働いてくれるし安く使えてよいという意見が多い」(馬上氏)

 しかも、これだけの少人数で10カ月の航海期間中は24時間を共に過ごし、乗組員同士に密な人間関係が形成される「離家庭・離社会性」の環境は、ともすればパワハラの温床になりやすい。馬上氏は「船という狭い中で陸上より人間関係が密であるため、パワハラなど人間関係により離職する人が多く時には乗組員から相談を受け、変えていかなければいけないと会員の漁業会社と取り組んでいるところ」とのことだが、センターの調査でも、新人乗組員が離職する理由に「人間関係」「乗組員との不仲」が目につく。

パワハラ問題の現状

 漁業会社にパワハラ問題の現状認識を尋ねてみたところ、下記の回答を得られた。

「当社では大きな問題は発生していないが、海上で乗組員間の問題が発生した際は、双方への聞き取りを行い、漁労長を仲介して問題の改善に向け、対処したいと考えている。また帰港後に直接、双方と面談を行い、解決に至っていない場合は対応策を講じる」

 この漁業会社はパワハラ対策に次のように取り組んでいる。

「ベテラン乗組員には若手乗組員に積極的な声掛けをするとともに言葉使いなどの注意をお願いしている。また若手、ベテランを問わずにLINEで情報交換をして、悩み事があれば打ち明けてもらっている。今後は、出航前にベテラン乗組員を中心としたパワハラ防止に関する勉強会行うことを検討している」

 もうひとつ、離職が多い背景には、船内では絶対的な権限を持つ漁労長が、会社にとってアンタッチャブルな存在であることも挙げられるという。

「遠洋漁業の漁労長は70代という船も多く、後任の不在を背景に毎年会社が拝み倒して乗ってもらっていることもあるので、そうした場合、漁獲(=売り上げ)を左右する漁労長に対して、漁業会社の社長も意見を言えない関係にある。新人の乗組員について『どうして、こんな奴を乗せるんだ!』と文句を言われても反論できず、その乗組員は辞めていくという悪循環が続いていると思う」

 この悪循環は馬上氏にとって看過できるものではない。以前から漁業の働き方改革やパワハラ防止対策の必要性を言及してきたことから、ここ数年は講習会の依頼があり、自ら漁村に出向き漁業者に向けパワハラ防止講習会を行うことが増えた。

健康管理に関する課題

 さらに約10カ月におよぶ航海期間中の職場環境では、健康管理も懸念される課題である。病気・ケガにはどう対処しているのだろうか。

 前出「船員の健康確保の現状について」は「船員は船員以外と比べて、疾病の発生率、肥満者やメタボリックシンドロームの割合が高い等、 健康リスクが高い状態にある。陸上と比較してどの年代でも船員の疾病発生率が高い」と指摘している。さらに水産庁の発表によると、漁業での労働災害発生率は陸上の全産業平均の約5倍にも及んでいる。

 船内で発生する病気やケガの治療には、遠洋漁業の船舶には、船員法82条で乗船が義務付けられている衛生管理者が担当する。衛生管理者の要件は「労働安全衛生法に規定する衛生管理者の資格を有し、船舶に乗り組み2年以上船内の衛生管理に関する業務に従事した経験を有する者」。衛生管理者は筆記試験(労働生理、船内衛生、食品衛生、疾病予防、薬物など)と実技試験(救急処置、看護法)に合格して取得できるが、船内で実施できる治療・処置には限界がある。まして漁船に乗船する衛生管理者は、医師・歯科医師・看護師などの医療専門職ではない。