開示されているイベント開催日数は計27日で、JNSEの田中洋市ビジネスデザイン部部長によると「日程調整が進んでいるイベントを含めると25年度の開催日数は50日程度」という。最大130日の目標数に比べて少ないが、これには事情がある。JNSEは24年9月に設立されたばかりで、JSCと実施契約を締結したのは11月である。通常運営に入るのは26年度からで、平均約120日を計画し、JSCが運営していた時代の約100日を上回るという。
「例えば国内チームと海外チームとの対戦など世界水準のイベントに質を上げて、開催日数を引き上げたい計画である。利用料金は、プロスポーツは据え置き、アマチュアスポーツはより利用しやすい料金に下げた。さらに、これまでの開催イベントはスポーツが主体だったが、我々は音楽やエンターテインメントの開催割合を増やして、20日ぐらいに引き上げたい」(田中氏)
国立競技場にはスポーツの聖地という歴史があるが、JNSEは音楽イベントでも国立競技場を聖地にする方針だ。「アーティストのなかには、コンサートで全国各地のアリーナを巡回した後に、最後は国立競技場で開催したいという方もいる」(田中氏)という意向を汲み取って聖地へのブランディングを進める計画で、その手段のひとつが「グローバル型のビジネスモデル」の導入である。
従来は「貸館」と呼ばれるイベント利用の料金が大半を占め、これに飲食事業が付随していたが、JNSEは貸館と飲食に加えて、ネーミングライツなどパートナーシップ事業や15室だったVIP席を約70室に拡大する、ホスピタリティサービス事業も強化する。パートナーシップ事業は、例えばネーミングライツ、飲料の独占販売権、クレジットカードのサービスを案内するラウンジ開設など事業機会を付与する。ホスピタリティエリアでは知名度の高い一流の料理人が手がける料理を提供する。
売り上げ構成比は、一般来場者の飲食を含む貸館事業、パートナーシップ事業、ホスピタリティサービス事業を各30%、その他を10%と計画している。これまで国立競技場は赤字を公費で補てんしていたが、JNSEは、いわば“稼げるスタジアム”に転換して経済的自立を図っていく。
ベンチマークしているのは例えば米国カリフォルニア州イングルウッド市の「SoFiスタジアム」である。このスタジアムはNFLのロサンゼルス・チャージャーズとロサンゼルス・ラムズの本拠地で、屋根中央に「Infinity Screen」と呼ばれる帯状の360度4K大型ビジョンが吊り下げられている。28年開催のロサンゼルス五輪の開会式会場にも予定されている。
田中氏はこう抱負を語る。
「欧米のスタジアムはパートナーシップ事業とホスピタリティサービス事業によって、貸館事業以外の柱を設けて収益機会をつくっている。我々もチャレンジしてゆくという意図でグローバル型のビジネスモデルの導入を掲げ、設備投資のみならず、スポーツ界にも還元し、スポーツの発展にも貢献して世界に誇れるナショナルスタジアムにしたいという思いを持っている」
収支計画は未公開だが、増改築など大規模な修繕費用はJSCが負担し、芝の張り替えなど小規模な修繕費用はJNSEが負担する。30年間の運営権528億円は年換算で17億6000万円。スポーツ庁と経済産業省が作成した「スタジアム・アリーナ改革の実現に活用可能な施設一覧」によると、SoFiスタジアムが2019~39年に結んだネーミングライツ契約額は年平均24億円(1ドル=120円で計算)である。
JNSEがこの水準に近づけば、ネーミングライツだけで運営権をペイできるだろうが、まずは26年度以降の通常運営に目を向けたい。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)