このように綾鷹は24年春のリニューアルで、ライトユーザー層や若年層を取り込む方向にシフトし、味も軽やかなものに変更した。
一方で「伊右衛門」は24年春、綾鷹と逆方向といえるリニューアルを実施している。サントリーによると伊右衛門は茶葉の量を1.5倍に、苦さや渋みをもたらすカテキン量を2倍に増量した。うま味抹茶を3倍使用し、コクも約3倍に増えたという。「伊右衛門」本体の商品で過去最高レベルの濃さを実現したとしている。軽さや安さが特徴のPB商品が勢力を伸ばしており、差別化を図る目的があったと言われている。
筆者は「お~いお茶」「綾鷹」「伊右衛門」の3商品を飲み比べてみたが、確かに苦さや渋みといった点では伊右衛門が最も強い印象だ。伊右衛門は運動時に軽く飲むというよりも、しっかりと緑茶を楽しみたい時に飲む商品であると感じた。逆方向のリニューアルがライトユーザー層での支持率を分け、24年度の両者逆転をもたらしたのかもしれない。
リニューアルで2位に再浮上した綾鷹だが、前述の通り業界では「お~いお茶」の地位が盤石だ。同商品は89年発売であり、2000年以降に発売された綾鷹、伊右衛門と比べて歴史も長い。1位の座を獲得すべく、綾鷹は今後どのような戦略を歩むのか。
「現在のデザイン、容量、味、コミュニケーションの4点が評価されているので、そこの強化を継続したいと考えております。後発ながら、綾鷹の持つ本格感などのブランドイメージは強い。濃い緑茶やほうじ茶などのラインナップを揃えることで、全体の底上げを狙う構えです。また、緑茶が一番飲まれるシーンは食事であり、昨年の秋から『おにぎり』を起点に、食事との相性をアピールする施策を進めています」(同)
同社は3月31日から6月21日までの期間限定で、「おにぎり食堂 綾鷹屋」を渋谷にオープン。鮭やたらこといった定番商品から、うなぎ山椒など高級具材まで、250~500円のおにぎりを販売している。おにぎりとの相性の良さをアピールする狙いだ。
同じスーパーに供給しても店舗によっては商品自体が置かれていないなど、「店舗カバー率」で改善の機会があり、社内外との連携体制も強化していく方針だと助川氏は話す。リニューアルで2位に復活した綾鷹。食事との相性やブランドイメージを訴求しながら、長期スパンで1位の牙城を崩す構えだ。
(文=山口伸/ライター)