●この記事のポイント
・AI医療機器は専門医不足の地方医療でニーズが高まっている。画像診断AIの進化により医療技術の均てん化が期待される一方、保険収載や診断責任が課題。
・和歌山県の竹村医院では、医師一人が年間1200件の胃カメラ検査を行うなかで、誤診防止のためAI内視鏡を導入。AIを医師の「補助線」として活用し、見落としリスク軽減に役立てている。
・地方医療におけるAI医療機器の導入は、医師不足や経営難の中で誤診を減らし、医療を持続させるための選択。将来的には問診から診療ナビゲーションまでAIが担うことで、医師不足解消に貢献する可能性もある。
AIによる画像診断技術が進化するなかで、医療の現場ではその社会実装が徐々に進んでいる。特に、専門医の不足や高齢化が深刻な地方医療の現場では、AI医療機器が静かに必要とされ始めている。
今回は、AI医療機器協議会の金井宏樹氏と、AI内視鏡を導入した和歌山県・田辺市にある竹村医院の高原伸明医師に話を聞いた。技術と現場の距離感を浮かび上がらせる。
●目次
AI医療機器というと、最先端の大病院が導入する高度な技術というイメージを持つ人も多いかもしれない。だが、実際には日本全国での活用が始まりつつある。AI医療機器協議会(2019年設立、加盟社数は当初3社から現在は38社に拡大)で理事を務める金井氏は、医療現場でのAI活用の進展を次のように説明する。
「画像診断におけるAIの活用は、まず放射線分野から始まりました。X線やCT、MRIは静止画で構成され、AIとの相性が良い。続いて、医師の手技(カメラや器具を扱う際の技術)の影響を受けやすい内視鏡や手術支援といった動画ベースの分野でも導入が進んできています」
たとえば金井氏の所属するAIメディカルサービスが開発したのは、内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI model-G2」。これはAIを利用して画像上で早期胃がんの診断補助を行う内視鏡診断支援ソフトウェアで、内視鏡検査中に、医師の診断のダブルチェックをリアルタイムで行うことができる。一般的に、内視鏡による胃がんの発見率は医師の経験や技術力によって大きく左右されるとされる。AIによるダブルチェックを導入することで、熟練医師が少ない地域においても検査水準の底上げが期待できる。
「医療技術の“均てん化”(全国どこでも、誰でも標準的な専門医療を受けられるように、医療技術や医療資源の格差を是正を図ること)という考え方があります。上位の医師の診断をデータ化することで、経験の浅い医師でも精度を底上げできる。AI医療機器は、そのためのツールでもあります」
社会実装が進んでいるとはいえ、現場での導入はまだ限定的だ。当初は薬事承認が下りないということもあったが、そこはクリアできつつある。しかし、保険収載(公的医療保険として認められ、診療報酬で点数がつくこと)がまだであるため、導入には病院側の自費負担が求められる。
「導入が進んでいるのは一部の医療機関に限られていて、医療機器が本当の意味で全国に普及するには、保険加算に関する働きかけが必要です。それが見込めるのは、早くても2030年ごろではないかとみています」(金井氏)
加えて、診断における責任の所在や規制との兼ね合いから、現状ではAIは「診断支援」に留まり、最終的な判断は医師が行う必要がある。効率的に活用するためのファーストリード(AIが最初に医療画像をスクリーニングし、異常の可能性がある画像を選別する役割を担うこと)も制度上は難しい。