病院事務の「3兆円削減」を狙うAI革命…富士通が描く医療DXの未来

 富士通は「電子カルテ事業で培った業務知識と、NVIDIAの技術支援を組み合わせることで、事業スピードを一気に高められる」と自信を見せる。

海外事例との比較

 世界ではすでに同様の動きが始まっている。富士通は「米国では電子カルテ首位のEpic社が、NVIDIAやMicrosoftと連携し、電子カルテの付加価値としてAIを統合する基盤を構築しています」と言及する。

 ただし、日本国内ではオーケストレーターAIエージェントを前面に打ち出す取り組みは珍しく、富士通は先行事例となる。

 導入範囲について富士通はこう説明する。

「初期段階では、受付・外来における非正規スタッフが担う問い合わせ対応や予約、会計受付、支払い、帰宅時のフォローアップなどを代替します。将来的には、医師・看護師・検査技師の業務支援にも展開を考えています」

 現場で標準化しやすい業務から着手し、徐々に高度な領域へと広げていくロードマップだ。

 もちろん、課題もある。AIの正確性や責任の所在、患者情報のセキュリティなどは現場にとって切実な懸念だ。

 富士通は「電子カルテで培ったノウハウを活かし、安全性と情報の正確性を担保する設計を行っています」と強調する。業務を横断的に統制するオーケストレーション機能によって、二重入力や業務の混乱を防ぐ仕組みを整えている点は重要だ。

「3兆円削減」は実現するか

 AI導入による事務作業の3兆円削減という数字はインパクトが大きい。しかし、全国の病院が導入し、現場に定着するには時間もコストもかかる。富士通は「2025年から実際の医療機関で実証を開始し、その効果を測定したうえでビジネスプランを策定します」と述べ、まずは効果を可視化して導入のハードルを下げる戦略だ。

 富士通は今後の展望について「医療提供体制は病院内中心から、データとAIを基盤にオンライン診療や在宅治療へとシフトしていく」と予測する。その先には、分散型臨床試験(DCT)や薬剤配送、家庭内で完結する治療といった新しい医療のかたちが広がるだろう。

 富士通の取り組みは、新サービス発表にとどまらず、日本の医療システム全体の変革を視野に入れている。電子カルテの実績とNVIDIAの技術を背景に、同社は「持続可能な医療」を実現するためのDXモデルを打ち出した。

「AIによる効率化で、医療機関が本来の役割である『医療の提供』に集中できる社会を目指します」と富士通は語る。

 3兆円削減という数字は、単なる夢物語ではなく、現実に向けた挑戦となりつつある。日本の医療の未来は、すでにAIによって形づくられ始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)