茨城空港は首都圏第三の国際空港になれる?インバウンド6000万人時代に向けて

茨城県が描く将来ビジョンと現実

 茨城県は、空港の現状を打開するため、2024年に「茨城空港のあり方検討会」を立ち上げ、2025年7月には「茨城空港将来ビジョン~首都圏第3の空港を目指して~」を発表した 。

 このビジョンでは、茨城空港の役割として、以下の3つを掲げている 。

 役割1: 茨城県や近隣県の観光・ビジネスの拠点となる空港
 役割2: 羽田・成田とともに、首都圏第3の空港として、日本の国際・国内航空需要に対応する空港
 役割3: 大規模災害時の災害対応拠点となる空港
ビジョンでは、ターミナルビルや駐機場の拡張、誘導路の増設など、大規模な改修による空港容量の拡大が計画されている 。これにより、国際線の旅客数を2030年代に50万人、2040年代には60万人まで増やすことを中期・長期目標としている 。

 これは、茨城空港にとっては大きな目標であり、実現すれば大きな成長となる。しかし、もし成田空港の工事が遅れ、年間2万回分の便が溢れた場合、旅客数にして約350万人分が受け入れ先を必要とする 。茨城空港が将来的な目標を達成したとしても、受け入れられるのは国際線で50万~60万人程度だ 。残りの大半は、他の地方空港に分散して対応せざるを得ない 。

 茨城空港は「首都圏第3の国際空港」と名乗っているが、国全体で見た場合、その規模感は小さく、成田空港の容量不足をすべて賄うのは現実的ではない 。

 では、溢れた需要はどこへ向かうのだろうか。

 国内の国際線旅客数ランキングを見ると、成田・関西・東京国際(羽田)に次いで、福岡、中部、新千歳、那覇空港などの基幹空港が300万~900万人の国際旅客を扱っている。溢れた需要の一部は、首都圏を離れた入国とはなるが、これら基幹空港に向かうであろう。

 また、首都圏に比較的近い地方空港として、仙台空港は国際線旅客数が50万人程度、静岡空港も20万人程度と、茨城空港よりも多い実績があり、首都圏の需要の受け皿となる可能性を秘めている 。これらの空港は、首都圏からのアクセスも比較的良好で、今後、需要の受け皿として機能していくことが期待される 。もちろん、各空港がさらに発着数を増やすには、誘導路の増設などそれなりの改修が必要となり、時間も費用もかかるが、これらが現実的な選択肢となるだろう。

オーバーツーリズムと日本の観光戦略

 もう一つ、忘れてはならないのが、観光客の増加に伴うオーバーツーリズムの問題だ。

 観光庁自身も、一部の地域でオーバーツーリズムが深刻化していることを認識しており、この問題に対する委員会を立ち上げるなど、対策を講じ始めている。もしインバウンド需要が目標通りに増加しても、それを運ぶ交通インフラや宿泊施設が追いつかないという、空港のキャパシティとは別の問題も発生する。

 首都圏の空港が容量不足になった場合、地方の空港を活用する動きは、観光客の流れを分散させ、地方創生にも繋がる可能性がある。また、インバウンドの増加を抑制することで、日本人が旅行しにくくなる、航空券が高騰するといった問題を回避できる側面もある。

 茨城空港が「首都圏第3の国際空港」という看板を掲げ、将来に向けた大規模改修計画を進めていることは、高く評価すべき努力だ。しかし、日本の航空需要全体を支えるためには、茨城空港だけでなく、仙台や静岡をはじめとする地方の国際空港が連携し、それぞれの強みを活かした戦略を構築していくことが重要となる。

(文=Business Journal編集部、協力=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学客員教授)