実際に広がるかどうかは、料金体系や認知度に左右されるだろう。
ClaudeはChatGPTやGoogleのGeminiに比べると日本での知名度はやや低い。そのため有料提供になった場合、「Claudeのために課金するかどうか」が利用拡大の分かれ目になる。
また、現状のプレビュー版は「すぐに業務効率化に直結する」というレベルには至っていない。タスクによっては時間がかかることや、人間がログイン作業を代行しなければならない場面も残されている。
この分野で競合となるのが、OpenAIやGoogleだ。
OpenAIはすでに「ChatGPTエージェント」を有料ユーザー向けに提供している。仮想ブラウザを開き、ECサイトで商品を検索・カートに追加したり、旅行予約サイトで航空券を探すといったことが可能だ。ただし「自分のアカウントでログインした状態から操作を開始する」ことは現時点ではできず、完全自動化には至っていない。
一方Googleは、自社AI「Gemini」を検索に組み込む「AIモード」を開始。さらに「チケット購入やレストラン予約を自動化するエージェントモード」も導入予定で、これはClaude for Chromeと真っ向から競合する機能といえる。
酒井氏はこう指摘する。
「各社とも“AIに任せられる領域”を着々と広げています。現状ではまだ実験的な要素が強いですが、課題が解決すれば私たちのネット利用のあり方を根本から変える可能性があります」
もしAIエージェントが日常的に活用できるようになれば、どんな世界になるのか。
まず考えられるのが「定型的で手間のかかる作業の自動化」だ。たとえば出張の際、これまでのように航空券と宿泊を自分で探して入力する必要はなく、「来週の大阪出張に必要なフライトとホテルを予約して」と指示するだけで済むかもしれない。
ビジネス現場では、経費処理やスケジュール調整などの“雑務”が大幅に削減され、より創造的な仕事に時間を割けるようになるだろう。
AIの進化は、単なる“答えを返すツール”から“実際に行動するパートナー”へとシフトしつつある。Claude for Chromeは、その変化を実感できる最初の一歩だ。
酒井氏は最後にこう展望を語った。
「今はまだ『すぐに生活や業務を激変させる』段階ではありません。しかし、複数の大手がこの分野に参入している以上、AIエージェントは確実に進化を続ける。私たちはまさに“AIに操作を任せる時代”の入り口に立っているといえるでしょう」
「ChromeとClaudeがタッグを組む」というニュースは、見方によっては誤解を招きやすい。しかし、その本質は「AIエージェントが一般ユーザーのブラウザ体験に近づいてきた」という事実にある。
OpenAI、Google、Anthropic。巨頭が揃って「操作するAI」に注力していることは、これが一過性の実験ではなく、今後のネット体験を形作る基盤技術であることを示している。
Claude for Chromeは、AIエージェントの可能性と課題を同時に映し出す鏡のような存在だ。私たちがネットをどう使うか――。その常識が近い将来、大きく塗り替えられるかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=酒井麻里子/株式会社ウレルブン代表取締役)