もし配信画面に「いま全国の視聴者がもっとも興奮している瞬間です」といった指標が表示されれば、離れた場所で観戦している人々も一体感を味わえる。今回の取材で浮かび上がったのは、スポーツをより「ソーシャルな体験」に変えていこうとする両社の姿勢だった。
今後のロードマップについても聞いた。
「2025年度中には、このプロジェクトから生まれる新しいコンテンツや広告ソリューションを発表できるよう取り組んでいます。視聴者や広告主の期待に応えられるよう、継続的に進化させていきたいと考えています」と担当者は展望を語る。
取材から見えてきたのは、この実証実験が単なる技術検証ではなく、明確に事業化を前提とした取り組みであるということだ。観戦体験の拡張と広告ソリューションの商用化――この二本柱でスポーツビジネスに新たな価値を創出しようとしている。
さらに担当者は「将来的には音楽やエンタメ分野にも応用できる」と話す。音楽ライブやeスポーツ、映画やドラマなど、感情が大きく動くコンテンツは数多い。
もし感情データがリアルタイムで取得できれば、広告や演出だけでなく、コンテンツそのものの設計に活用できる。取材を通じ、今回の技術がスポーツの枠を超え、エンタメ産業全体に波及する可能性を秘めていることが実感できた。
一方で、課題もある。
「生体データは非常にセンシティブな情報です。視聴者が安心して利用できる仕組みづくりが不可欠ですし、広告における倫理的な配慮も重要です」と担当者は指摘する。
感情データの活用は、視聴体験を豊かにする一方で「感情を利用される」という懸念も生じかねない。そのバランスをどう取るか。取材を通じ、今後の事業化に向けて透明性と説明責任が大きな鍵になると感じた。
今回の取材で浮かび上がったのは、博報堂とDAZNが取り組む実証実験が、単なる技術開発ではなく「スポーツ観戦の本質」に迫る挑戦だということだ。人々がスポーツに熱狂する理由は、まさに感情の揺れ動きにある。その瞬間をデータ化し、共有し、広告やコンテンツに生かすことで、新しい価値を生み出そうとしている。
2025年度の発表に向け、両社の取り組みは大きな注目を集めることになるだろう。スポーツビジネス、広告業界、そしてエンタメ全体の未来を見据える上で、この「感情データ」の挑戦は見逃せない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)