●この記事のポイント
・ノーベル化学賞受賞の京大・北川進教授が発見した新素材「MOF」が、CO2回収や半導体など多分野で実用化へ進展。
・大阪ガスやレゾナック、日本フッソ工業などがMOFを活用し、脱炭素や耐食性向上などの事業を加速。
・AIによる素材設計と融合し、MOFは日本の「素材立国」復権とGX産業の新たな成長軸を担う可能性が高まっている。
ノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進教授。その功績を支えたのは、ナノレベルで分子を吸着・分離できる新素材「金属有機構造体(MOF)」だ。かつては実験室の中の研究素材と見なされていたこの“空孔素材”が、いま産業界で急速に実用化フェーズへと進んでいる。
大阪ガスのCO2回収、レゾナックの分離膜技術、日本フッソ工業の耐食コーティング──。エネルギー、化学、半導体、あらゆる領域で新市場を生むMOF革命の全貌を追う。
2025年、京都大学・北川進教授がノーベル化学賞を受賞した。受賞理由は、金属イオンと有機分子を組み合わせて構築する「金属有機構造体(MOF)」の創出。
ナノレベルで空間を制御できるこの素材は、CO2吸着やガス分離、水素貯蔵、触媒反応など、環境・エネルギー分野を根本から変えるポテンシャルを持つ。
MOFとは、いわば“原子で設計されたスポンジ”だ。内部に無数のナノ孔を持ち、そこに特定の分子だけを選択的に吸着できる。空孔サイズや化学的性質を自在にチューニングできるため、従来の多孔質素材(活性炭やゼオライト)では不可能だった分離・貯蔵が可能となる。
北川教授の研究が契機となり、現在、世界では40社を超える企業やスタートアップがMOF関連事業に参入している。米国のNuMat Technologiesは半導体製造に用いる高純度ガスの分離・貯蔵素材を開発し、Intelなどと提携。スイスのMOF Technologiesは大気中からCO2を回収するDAC向け素材を供給し、中国では上海MOF Materialsが量産体制を確立している。
市場規模は2024年時点で約5億ドル、2035年には30億ドルを突破すると予測される。なかでも日本企業の存在感は大きく、素材・エネルギー・化学の三領域で実装が進んでいる。
・大阪ガス:大気からCO2を“吸い取る”都市ガス革命
大阪ガスは、MOFを用いたダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)を開発。大気中の微量なCO2を効率的に回収し、再利用する技術だ。
同社はMOFによってCO?を高効率で吸着・放出できるプロセスを確立し、回収したCO2をメタン化する「eメタン」計画と連携。
2050年には都市ガスの50%以上をeメタンなど再生可能ガスに転換する構想を描く。燃料を“分子レベルから再設計する”構想の中核を担うのが、まさにMOFである。
・レゾナック:CO2を“原料”に変える分離技術
化学大手・レゾナックは、MOFを使ったCO2分離回収プロセスを実証中だ。従来のアミン吸収法はエネルギーコストが高く、設備腐食のリスクが課題だった。
MOFなら低温・低圧でCO2を吸着・放出でき、運転エネルギーを大幅に削減できる。
レゾナックは2035年度をめどに、プラントや発電所での実用化を進め、回収CO?を用いた化学品製造へも展開する構想を掲げる。
CO2を「廃棄物」ではなく「資源」に変える──。その構造転換を支えるのがMOFという分子素材だ。
・日本フッソ工業:ナノコーティングで金属タンクの寿命延伸