「クリックしなくても報酬」…KDDIとグーグルが描く日本型AI共存モデルの行方

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UnsplashNathana Rebouçasが撮影した写真

●この記事のポイント
・KDDIとグーグルが2026年春に開始する新サービスは、許諾を得た記事のみをAIが要約・引用する「責任ある検索」モデル。
・生成AI時代における著作権保護と報道の共存を目指し、KDDIは“信頼の入口”、Googleは“合法的AIモデル”の確立を狙う。
・成否の鍵は、報酬モデルの公平性・大手メディアの参画・UXの革新性にあり、日本発の共存型AI検索として注目される。

 2025年10月、KDDIと米グーグル傘下のグーグル・クラウド・ジャパンが発表した「記事検索サービス」の構想は、単なる検索機能の刷新ではない。それは、生成AIが支配する情報環境のなかで、コンテンツの価値と信頼をいかに守るかという、日本型「情報エコシステムの再設計」そのものである。

 2026年春に開始予定の同サービスは、グーグルの生成AIモデル「Gemini」やノート型AI「NotebookLM」を活用し、提携メディアの“許諾済み記事”のみを対象に、ユーザーの質問にAIが要約・引用して答える仕組みを取る。無断学習や著作権侵害が世界的に問題化するなか、あえて「権利者との共存」を掲げた点に、このプロジェクトの核心がある。

●目次

AIが変える“情報の主権”と“信頼の危機”

 生成AIの台頭によって、検索は「情報を探す」行為から「答えをもらう」行為へと変化した。だが、その便利さの裏で、いくつものひずみが生まれている。

 ・AIが誤情報(ハルシネーション)を生み出す「精度危機」
 ・記事をクリックしなくても満足してしまう「ゼロクリック問題」
 ・メディアの収益源である広告が細る「デジタル敗戦」

 とりわけ日本の報道産業は、紙媒体の衰退と広告モデルの限界のなかで、AI時代の“生き残り策”を模索している。その現状打破の糸口として、今回のKDDI×グーグル提携が注目を浴びたのだ。

KDDIの狙い――「通信の次」は“信頼の接点”づくり

「KDDIの狙いは明確で、『検索の主導権を取り戻すこと』、そして『ユーザー接点を再び自社領域に引き戻すこと』にあります。

 長年、通信キャリアは“パイプ役”として膨大なデータを流してきたが、肝心の情報消費の主導権はグーグルやYahoo!に握られてきました。生成AIが情報の“最終回答装置”になれば、キャリアはさらに影が薄くなる――その危機感が今回の提携の原動力でしょう。

 KDDIは自社の『ソブリンクラウド(国内管理型クラウド)』を通じ、Geminiを安全な環境で動かす。これにより法人・行政にも信頼されるAI基盤を構築し、『信頼性の高い検索=KDDI経由』という新たなブランドポジションを狙っています」(経済コンサルタントの岩井裕介氏)

 松田浩路社長が語っていたが、「コンテンツを守るのは通信事業者の使命」という思想を、AI時代の“責任ある情報流通”に拡張する試みだ。

グーグルの狙い――「免罪符」と「日本版Gemini強化」

 一方のグーグルにとって、この提携は極めて戦略的だ。

「世界各国でメディアとの著作権訴訟が相次ぐなか、『許諾を得た記事のみを対象とするAI検索』は、“責任あるAI”の象徴モデルとなります。つまり、『我々は合法的に共存できるAI検索モデルを構築した』と世界に示す“免罪符”でもあるわけです。