・労働集約的でスケールメリットが効きにくい:1件1件の配送に人手が必要なため、規模拡大によるコスト逓減が起きにくい。
・値上げができない消費者心理:「便利さ=無料・格安」が前提となり、価格転嫁が困難。
・店舗側の利益構造も脆弱:手数料(20~35%)が高く、飲食店が負担を嫌って撤退するケースも。
・キャンペーン依存の集客構造:『初回無料』『期間限定割引』など、顧客獲得コストが高止まりしている。
結果として、利用者が増えても赤字が増える“逆規模の経済”という構図が生じているわけです」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
今後の焦点は、デリバリーを“単体事業”としてではなく、スーパーアプリの一機能としてどう統合できるかだ。
「LINEヤフーのように会員制度(LYPプレミアム)で囲い込む戦略は、アマゾンが『プライム』で成功したモデルに近い。デリバリー単体では赤字でも、『会員継続や広告収入で黒字化』という構造を狙っていると考えられます。
また、AIによる配達ルート最適化、店舗のゴーストキッチン化、共同配送網など物流効率の向上が鍵を握るでしょう。ウーバーやmenuもAIを活用した配達効率の向上を模索しており、技術投資が中長期的な収益化の分岐点となります」(同)
デリバリー市場の競争構造は、他業界の“赤字拡大型成長”に酷似している。
・モビリティ(ライドシェア):UberやLyftは長年赤字を続けたが、シェア獲得後に料金上昇で収益化を図った。→ 利用者離れとともに成長が鈍化。
・動画配信(Netflix、Amazon Prime Video):莫大なコンテンツ投資で競合を排除し、残存者利益を得た。→ 結果的に寡占化が進んだが、利益率は低水準。
・EC(楽天、アマゾン):配送コストが重く、プラットフォーム外の広告・金融事業で利益を補填。
つまり、デリバリーも「赤字拡大→淘汰→寡占→値上げ→再赤字リスク」という循環をたどる可能性が高い。
「今後1~2年で、menuやロケットナウなど中堅勢が撤退または統合され、ウーバーイーツ、出前館、Wolt(都市限定)の“2.5社体制”に収束するとみられます。
出前館はLINEヤフー経済圏との統合で生活基盤サービス化を進め、ウーバーイーツは物流効率とブランド力で優位を維持。Woltは都市部のプレミアム市場(高単価ユーザー)を狙う三極構造となるでしょう。
ただし、どの企業も『配達料を上げる』『広告を拡大する』『物流を共有化する』といった抜本的な転換を迫られます。“無料の終わり”が、次の段階を決定づけることになるでしょう」(同)
日本のデリバリー市場は今、便利さの代償として“利益なき拡大”の限界を迎えている。
短期的な勝者は存在せず、最終的に残るのは“プラットフォームを超えたエコシステムを築いた企業”のみ。出前館がLINEヤフーの一部として残るのか、ウーバーが独自物流を活かして勝つのか、鍵を握るのは「単体黒字」ではなく「全体シナジー」だ。
業界の再編が始まるのは、もはや時間の問題である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)