アリババがスマートグラスの覇権を握るか…視界のEC化と“24時間の壁”の突破

 グーグルの強みは検索、メタはSNSだ。しかしアリババは違う。アリババが握っているのは 「購買(EC)」と「決済(Alipay)」 であり、ユーザーの生活行動に最も近い“お金の流れ”そのものだ。

 街中で見かけた服を注視すると、→ 同じ商品、類似品の価格比較が表示→ そのままTaobaoで購入→ 決済はAlipayで即完了。
 レストランの看板を見れば、→ Dianpingの口コミ→ 混雑状況→ 周辺店舗のおすすめまで自動で提示する。

 これは単なる「AIグラスの便利機能」ではない。視界がそのまま巨大なECモールになるということである。

 アリババの狙いは、ハード売上などではない。Quark AI Glassesは、Qwen(アリババのLLM)を通じてユーザーの視覚情報を独占し、自社経済圏へ誘導する究極の装置である。

「グーグルが挫折した“視覚情報のリアルタイム理解”を、アリババはバッテリーとEC経済圏を武器に完成させつつある。スマートグラスは『第二のスマホ』になり得ます」(同)

 Quark AI Glassesは、検索すら不要にする“ポスト検索時代の入口”となる可能性すらある。

米巨大テック企業との立ち位置の違い──アリババはどこが異なるのか

 メタは「楽しい体験」を売る。撮影、SNS投稿、音楽──いわば“エンタメ主体”だ。

 一方アリババは、実利性と日常効率を徹底して追求する。翻訳、OCR、リアルタイム検索、ECへの即時誘導。中国市場では、娯楽よりも実用性が圧倒的に強い。

「中国では“すぐ役に立つ”ものから普及する。アリババの戦略は、まさにその文化的特性にフィットしています」(小平氏)

 グーグルは膨大な検索データを持つが、一般向けのスマートグラスを持っていない。一方アリババは、ハード(グラス)、ソフト(Qwen)、購買・決済(Taobao+Alipay)、この3点セットを同時に持つ。

 特に“視界→購買”という導線は、Googleが苦戦してきた領域だ。アリババは、10年遅れて参入したように見えて、実は“完成形”のタイミングで登場してきたとも言える。

グローバル展開の壁──それでも脅威は消えない

 Quark AI Glassesが国際市場で直ちに受け入れられるかといえば、答えはNOだ。理由はプライバシーとセキュリティである。

●欧米・日本での高いハードル 

 ・カメラ付きデバイスへの抵抗
 ・視覚データの扱いへの不信感
 ・中国製AIへの政治的・規制的懸念

 これらは無視できない。欧米では、メタですら「録画中ランプ」が義務化されている。アリババ製のデバイスが同じ基準で受け入れられる可能性は高くない。

 しかし、だからといって油断はできない。中国国内は、世界最大級のウェアラブル市場であり、1.4億人を超える中間層が存在する。中国国内だけで圧倒的なデータ量が生まれ、AIの精度が急速に進化する可能性がある。

 ハードはローカルで普及し、AIはグローバルで競争力を持つ──この構造が、グーグル、メタ、OpenAIにとって脅威にならないはずがない。

日本への示唆──ハードのままでは勝てない

 アリババのQuark AI Glassesは、「高機能なメガネ」ではなく、身体に装着できるスマホに近い。そしてその真価は、ハードでもAIでもなく “購買という出口”を押さえている点にある。

 日本企業も、光学技術や筐体設計では十分に勝負できる。しかし最大の弱点は、「そのデバイスでユーザーをどのサービスに誘導するのか」という出口戦略の欠如だ。

 ある日本の技術経営者は語る。

「日本企業はハードを作るのは得意だが、エコシステムで稼ぐ設計が弱い。アリババは“視界の入口から決済まで”を一気通貫で押さえている」

 アリババのグラスは、デバイスとサービスの融合がいかに強力かを示す象徴的な事例だ。そしてこれが、次の10年のスマートグラス競争の中心軸になることは間違いない。

 視界のEC化と24時間の壁突破。この二つを実現したアリババは、ハード市場の“後発”ではなく、むしろ“ポストスマホ時代の先頭走者”になりつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)