結果として、利用者に1500~2500円という低価格を提供しても事業は十分に成立する。
レンタカー業界におけるスタートアップにとって最も重い費用は車両購入費だ。1台70万円なら100台で7000万円。これは重すぎる。
しかしスポサポレンタカーは車を買わない。その代わりに、以下の複数ルートで“調達”する。
・中古車店の長期在庫を預かる(売上の15%を還元)
・自治体の広告予算を用いて車両導入
・企業の節税・利益繰り延べスキーム
・地場中古車業者との連携
この複線化されたスキームにより、新規地域でも初期投資ゼロで立ち上げ可能という強みを持つ。
これはスタートアップ経営者にとって重要な示唆だ。「資産を持たずに、資産運用の“ハブ”になる」という発想は、モビリティ以外にも応用できる。
スポサポレンタカーが大きな注目を集めている理由の一つは、「地域スポーツとの連携」が行政にとって強い説得力を持つ点だ。
例えば福岡県うきは市の事例では、地元ラグビーチーム「ルリーロ福岡」のラッピング車を主要駅に配置。行政も“地域スポーツ支援×二次交通の確保”という文脈で高い関心を示した。
「ただの広告車なら行政予算は落ちない。スポーツ支援という文脈があるからこそ、交通・観光政策と結びつく」(荒巻氏)
自治体の交通課題は次の3つに集約される。
・路線バスの減便(ドライバー不足)
・タクシー不足
・観光地の二次交通不足
スポサポレンタカーは、このすべてに小さくフィットする。
利用者のボリュームゾーンは20~30代が8割。大学付近に設置した地域では、12時間1500円の手軽さもあって学生利用が急増している。
平均利用は24時間程度。土日は1000円値上げしても稼働量は落ちない。
若者の移動手段を回復させることで、地域の商圏が広がり、消費が動く。ここにも社会的意義がある。
取材を通じて明らかになった、MOVINの強みは以下の3点だ。
① “構造をずらす”ことで既存市場を突破
・既存レンタカーは「車両購入→固定費回収の価格設定」
・MOVINは「車両調達を外部化し、広告で収益補完」
構造を変えることで、新参企業でも参入できる余地をつくった。
② 地域ごとに最適な“事業成立ライン”を柔軟に設計
・最小1台からスタート可能
・3~5台で最適化
・車両調達は地域の資産を活用
“標準化しすぎない”設計が地方展開向きだ。
③ 行政・スポーツ・企業を巻き込む三方良しのストーリー
モビリティ事業は行政との関係が必須だが、スポーツ支援が入ることで自治体の関心が一気に高まる。
荒巻氏は、5~10年先に以下のビジョンを描いている。
・1時間100~150円で車が借りられる
・どの拠点で返してもよい“フリー返却型”へ
・リアルタイム走行データとAIを活用した観光・飲食広告
たとえば、福岡に来た女子大生のグループがどの方向へ向かっているかをリアルタイムで把握し、その動線に合った観光情報を提供する──そんな新たな広告市場をつくる構想だ。
意外にも、MOVINは人材領域にも踏み込んでいる。英語トラック(英語のみで卒業可能)の外国人留学生の就職率はわずか10%。
この「ミスマッチ市場」を解決するため、スキルの高い学生と企業をつなぐプラットフォームを構築中だ。
モビリティとは離れているように見えるが、“既存構造のズレを埋める”という点で共通する事業哲学がある。
スポサポレンタカーは、単なる安価レンタカーではない。地域交通の課題解決、スポーツチームの財源確保、地域企業のブランディング、若者の移動の回復──。これらを一つに束ねることで、まったく新しい地域インフラの姿を提示している。スタートアップ経営者にとっては、「業界構造を読み替えることで、既存市場の外側に巨大な余白が生まれる」という最良のケーススタディだ。
そして、一般のビジネスパーソンにとっても、地域交通とスポーツという身近なテーマが、ここまで革新的なビジネスになるという点が非常に興味深い。
荒巻氏が描く未来が現実になれば、“移動の選択肢”は確実に増え、地方の観光・雇用・スポーツ文化にまで波及していく。
次の成長ステージは「全国展開」。スポサポレンタカーが、地域モビリティの新しいスタンダードになる日も、遠くないのかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)