OpenAI、グーグル、MS、AWSも…巨大IT連合が「AIエージェント標準化」に走る裏事情

Linux Foundation主導という“中立性”の意味

 AAIFが特定企業主導ではなく、Linux Foundationの下で設立された点は象徴的だ。Linux Foundationは、Linuxカーネルをはじめ、KubernetesやHyperledgerなど、業界横断の基盤技術を中立的に管理してきた実績を持つ。

 今回も、アンソロピック、OpenAI、Blockの3社が「創設貢献者(Founding Contributions)」として技術資産を寄贈し、それらを特定企業の私有物から切り離し、財団管理のオープンプロジェクトへ移管した。

 これは「自社技術を業界標準に昇華させる」一方で、「単独支配と見なされるリスクを回避する」ための、極めて現実的な選択とも言える。

 AAIFで標準化の中核を担う技術の一つが、アンソロピックが開発したMCP(Model Context Protocol)だ。MCPは、AIモデルと外部データやツールを接続するための共通プロトコルで、しばしば「AI界のUSB端子」と例えられる。

 従来は、AIモデルごとに専用の接続コードを書く必要があった。しかしMCPが普及すれば、一度対応するだけで、ClaudeでもChatGPTでもGeminiでも、同じ仕組みでツール操作が可能になる。

 小平氏は、この点が日本企業にとって特に重要だと指摘する。

「標準化の意義は、特定企業が勝つことではなく、『実装の再利用』が効く世界を作ることです。多くの日本企業が本当に求めているのは、派手なデモではなく、監査可能で確実に運用できる自動化です。一度作った実装を横展開できるようになれば、現実的なAI活用が一気に進みます」

AGENTS.mdとGoose――“予測可能なエージェント”へ

 AAIFには、MCP以外にも重要な技術が寄贈されている。

 OpenAIが開発したAGENTS.mdは、AIエージェントに対してプロジェクト固有のルールや文脈を伝えるための標準フォーマットだ。「AIのためのREADME」とも言える存在で、エージェントの挙動を予測可能にする役割を担う。

 また、Blockが開発したGooseは、AIエージェントを構築・運用するためのフレームワークであり、MCPの参照実装(リファレンス)としての役割も果たす。

 これらが財団管理の“公共財”となったことで、エージェント開発は一気に工業化の段階へ近づいた。

 もっとも、標準化を手放しで歓迎する声ばかりではない。標準化とはすなわち「ルールを決めること」あり、ルールを握る者が市場で有利になるのは歴史が証明している。

 小平氏は、標準化が健全に機能する条件についてこう警鐘を鳴らす。

「誰でも実装でき、意思決定が透明であることが最低条件です。もし主要企業だけで仕様変更を決め、自分たちの都合でルールを回せるなら、標準化は競争促進ではなく、『競争の出口を塞ぐ装置』になりかねません」

 新興企業やスタートアップが革新的な技術を持っていても、AAIFの規格から外れていれば“つながれない”。オープン化の名の下で、参入障壁が築かれるリスクは常に存在する。

「我々は神を作る気はない」――呉越同舟の危うさ

 さらに、この巨大連合は決して一枚岩ではない。団体設立直前の12月初旬、アンソロピックのダリオ・アモデイCEOはイベントで、競合を念頭に「我々はドラマ(お家騒動)とは無縁だ」「神を作ろうとしているわけではない」と発言。AGIを神格化する風潮を強く牽制した。

 技術の共有は利害一致だが、思想や哲学まで共有されたわけではない。AAIFは、協調と対立が同時進行する“呉越同舟”の連合体といえる。

 AIエージェント時代の幕開けとなる今回の標準化。企業はどう向き合うべきか。小平氏は最後に、セキュリティと運用の視点を強調する。

「『どのモデルが賢いか』より、『運用できるか』が先です。標準化は追い風ですが、『標準=安全』ではありません。接続が容易になり、接続先が増えるほど、攻撃を受ける面(アタック・サーフェス)も増える。権限管理と監査を徹底して初めて、標準化の恩恵を受けられます」

 巨大IT企業が築こうとする新たな秩序は、利便性の拡張か、それとも支配構造の再編か。その答えは、AAIFという枠組みが今後、どこまで透明性と中立性を保てるかにかかっている。導入する企業側にもまた、その本質を見極める冷静な眼力が求められている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)