「1本5400円の水」は最強の消耗品?ReFaとGENDAが仕掛ける高級水ビジネスの正体

 GENDAは、アニメやゲームなどIPビジネスを中核に据える企業だ。その文脈で見ると、フィリコはIPの出口を一段引き上げるための“器”として機能する。

「キャラグッズはどうしても単価に限界がある。Tシャツやアクスタで1万円を超えるのは難しい。でも“祝いの場”に使われる商品なら、話は別です。フィリコは、推し活とナイトマーケットの文脈を非常にうまく捉えています」(同)

 ホストクラブ、誕生日イベント、記念日──そこでは価格よりも「見栄え」「象徴性」が重視される。フィリコは、その需要をピンポイントで刈り取る構造を持つ。

 さらに見逃せないのが、在庫特性だ。フィリコは中身の水がほぼ共通で、差別化は外装のみ。

「フィギュアや立体物と比べると、在庫リスクは驚くほど低い。金型も不要で、劣化もしにくい。IPビジネスにとって、これほど“扱いやすい高単価商材”は珍しい」(同)

 感情に訴求しながら、オペレーションは極めて合理的。そこに、このビジネスの強さがある。

なぜ各社は「水」を選んだのか

 ReFaとフィリコ。アプローチは違えど、両者が水に行き着いた理由は共通している。

(1)最もハードルの低い「高級ブランド体験」

 10万円の商品は躊躇されても、5,000円の水なら試せる。これは「マステージ(Mass+Prestige)」戦略の典型だ。

「水は“高級ブランドの入門編”として非常に優秀です。失敗してもダメージが小さい。企業側からすると、新規顧客との最初の接点をつくるには理想的な商材です」(同)

(2)広告費を「体験」に置き換える発想

 水は毎日消費される。つまり、毎日ブランド体験が発生する。15秒CMを何度も見るより、1カ月間、毎日そのブランドの水を飲むほうが記憶には残る。

(3)パーソナライズの余地が大きい

 水は無色透明で、成分設計やストーリー付加が容易だ。将来的には、肌質・体調・ライフスタイルに合わせた展開も可能だろう。

水ビジネスは「関係性を透明化する装置」である

 1本5,000円の水を買う人は、喉の渇きを潤しているのではない。そのブランドが提示する「こうありたい自分」「この世界観に属していたい」という物語を、日常の中に取り込んでいる。

 企業にとって水は、
・原価が低く
・毎日消費され
・生活の深部に入り込み
・感情と結びつきやすい
という、極めて優秀な“関係性構築ツール”だ。

 高級水ビジネスとは、非合理な贅沢ではなく、成熟市場におけるブランド経営の一つの到達点なのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)