量から質へ。数字の“人数”は減っても、経済的な実入りが必ずしも比例して減るわけではないという現実が、徐々に業界内で共有され始めている。
今回の価格調整で最も打撃を受けたのは、明らかにビジネスホテルゾーンだ。背景には、構造的な問題がある。
第一に、京都ではこの数年、中価格帯ホテルの新規開業が集中した。インバウンド需要を見込んだ投資マネーが流入し、「どこも満室」「いくらでも値上げできる」という前提で供給が膨らんだ。
第二に、その需要の中核を担っていたのが、中国人団体・個人客だった点だ。特定市場への依存度が高いほど、外部要因による変動リスクは大きくなる。
前出の観光業者は次のように分析する。
「高級ホテルはブランド力と顧客基盤があり、価格決定権を持つ。一方でビジネスホテルは、需給が崩れた瞬間に価格競争へ陥りやすい。京都では、その歪みが一気に表面化した」
つまり、今回の“暴落”は、偶発的な事故ではなく、脆弱なゾーンが真っ先に調整された結果なのだ。
皮肉なことに、今回の変化を歓迎している層も少なくない。京都市民からは「バスに座れるようになった」「道が歩きやすい」といった声が聞かれる。
また、日本人ビジネスパーソンや出張族にとって、宿泊費の適正化は明確なプラスだ。これまで「京都出張=高コスト」という歪んだ状況が、ようやく是正されつつある。
経済ジャーナリストの岩井裕介氏はこう語る。
「観光都市が生活機能やビジネス機能を失えば、長期的には競争力を失う。今回の調整は、都市としてのバランスを取り戻す過程ともいえる」
春節を控え、京都の宿泊市場は再び動き出すだろう。ただし、その主役がかつてのような『数の中国』に戻るかどうかは不透明だ。
むしろ今後は、多国籍・高付加価値・長期滞在という方向へ、ゆっくりと重心が移っていく可能性が高い。
今回の価格急落は、インバウンドバブルの崩壊ではない。日本が「安売り観光地」から脱却し、持続可能な観光立国へ移行するための、手痛いが必要な洗礼だ。
京都で起きているのは、静かな失速ではない。それは、観光の質を問う選別の始まりなのである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)