■流動性を優先した銀行・生保
一方、銀行や生保では店舗削減が急速に進み、定型事務の多くは消滅した。その結果、特定業務に特化した人材よりも、営業・企画・デジタルを横断できる多能工型人材が求められるようになった。
三菱UFJ銀行が進める職種一本化は、その象徴だ。全社員を同一評価軸に乗せ、成果とスキルで処遇を決める。AIを前提に、「誰もがフロントに立つ」組織への転換である。
区分維持か一本化か――。表面的な制度設計は異なるが、実は両者には明確な共通点がある。
それは、「低賃金・低スキルの事務職モデルを終わらせる」という点だ。
伊藤忠商事は、一般職を「ビジネスエキスパート職」へと改称し、処遇を引き上げた。メガバンクも一本化によって、旧一般職層が成果次第で年収1,000万円超を狙える評価体系に組み込まれている。
松本氏はこう指摘する。
「年収400万~500万円で“手作業中心”の事務を担うモデルは、もはや成立しません。AI時代の事務職は、年収800万~1,000万円以上の価値を出せる『AI活用型プロフェッショナル』であることが前提です」
これは、日本型ホワイトカラーの構造改革そのものだ。
AI導入によって消えたのは、入力・転記・確認といった作業だ。一方で残ったのは、判断、設計、統合、説明責任といった、人間にしか担えない業務である。
・複雑化する国際税務や規制対応
・AIが出した結果の検証とリスク管理
・事業部門とシステム部門をつなぐ翻訳機能
こうした役割を担う人材は、もはや「一般職」という言葉では括れない。三菱商事の再開は、「事務職エリート」という新たな職能層の誕生を示している。
三菱商事の8年ぶりの一般職再開は、懐古主義でも、女性活躍アピールでもない。それは、AI時代における「事務」という仕事の再定義だ。
企業が求めているのは、指示待ちの補助人材ではない。AIを武器に変え、組織のOSを更新し続ける実務のプロフェッショナルである。
商社の区分維持と、銀行の一本化。その“真逆”に見える動きは、日本型雇用の象徴だった「一般職」が、AIという触媒によって解体され、再構築される過程を映し出しているにすぎない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)