
●この記事のポイント
・株の損益通算や繰越控除で税金が戻っても、確定申告で所得が増えると国保料・介護保険料が上がる場合がある。還付より負担増が大きい“逆ザヤ”に注意。
・年金生活者は、特定口座で完結していれば申告不要のケースが多い。だが節税目的で申告すると、軽減措置のライン超えで保険料が数万円単位で跳ね上がる危険がある。
・確定申告の判断は「税金が戻るか」ではなく「手残り」で決めるべきだ。自治体の試算で保険料増を確認し、NISA活用や申告しない選択も視野に入れたい。
確定申告の季節がやってくる。新NISAのスタートを機に、老後資金の運用として株式投資に本腰を入れるシニア層も増えた。そうした中で、多くの人が一度は耳にするのが「株の節税」である。
「昨年は損をしたから、利益と相殺して税金を取り戻そう」
「損失は繰り越して、来年以降に役立てよう」
投資家としては“正解”に見えるこの行動が、年金生活者の家計を直撃する「大誤算」につながることがある。その正体は、所得税よりも“重い”インパクトを持つ 国民健康保険料(国保)や介護保険料だ。
確定申告は、本来「払いすぎた税金を取り戻す」ための制度でもある。だが年金生活者の場合、その一筆が 保険料・自己負担割合・給付条件まで連鎖的に動かし、結果として“損”になるケースが現実に起こり得る。
●目次
通常、証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」を利用していれば、株の売買益からは約20%(所得税+住民税+復興特別所得税相当)が天引きされる。この場合、投資の税金は“口座内”で完結するため、原則として確定申告は不要だ。
しかし、以下のケースでは確定申告を行うことで税負担を軽減できる可能性がある。
損益通算(損出し・益出し):A社で出た利益とB社で出た損失をぶつけて利益を圧縮し、払いすぎた税金の還付を受ける。
繰越控除:その年の損失を申告しておき、翌年以降3年間にわたり利益から差し引く。
「1円でも税金を安くしたい」というのは、投資家として自然な判断である。ところが――年金生活者にとって問題となるのは、この「税金を安くするための申告」が、別の場所で高いツケを回してくる点だ。
会社員時代、健康保険料や厚生年金保険料は給与額に応じて決まっていた。しかし定年後に国民健康保険(国保)や後期高齢者医療制度に加入している場合、保険料は原則として 前年の所得をベースに算定される。
ここが運命の分かれ道になる。特定口座(源泉徴収あり)の中で税金まで完結していれば、株の利益は“申告しない限り”表に出ない。
だが、節税のために確定申告をした瞬間、株の利益は自治体側にも反映され、国保料や介護保険料の算定土台に乗る可能性が出てくる。税金は取り戻せても、翌年度の国保料や介護保険料が上がれば、家計全体では逆ザヤになりかねない。
税理士・村井綾乃氏はこう指摘する。
「確定申告は所得税のためだけの手続きと思われがちですが、実務上は“住民税”“国保”“介護保険”などへ波及するケースが少なくありません。特に年金生活者は、軽減措置の境界線をまたぐだけで年間数万円単位の負担増になることがあり、税の還付だけを見て判断すると危険です」