「1,200円版は“優秀なアシスタント”。3,000円版は“思考拡張装置”です。前者は作業効率を上げ、後者はアウトプットの質そのものを変える。投資対効果の構造が違います」(同)
つまり、Plusは「時短」。Proは「価値最大化」。この違いは、企業内の職種ヒエラルキーにも直結する可能性がある。
グーグルの価格戦略は、競合各社への強烈な牽制でもある。OpenAIは廉価版「ChatGPT Go(約1,500円)」を急拡大中。マイクロソフトはCopilotをOfficeライセンスと組み合わせることで実質的な値下げを進めている。
今後の焦点は「無料版の位置づけ」だ。YouTube Premiumが「広告なし体験」を有料化したように、AIも「ストレスフリー利用」が課金の主軸になる可能性が高い。無料版は回数制限や応答速度制限が強化される公算がある。
「AIは水や電気のような存在になりつつある。無料で最低限は使えるが、快適に使うには課金が必要になる構造です。今回の1,200円は“標準プラン”の定義を塗り替えました」(同)
価格のミドルレンジ化は、市場の再編を加速させる。
グーグルの戦略の核心は、AI単体の収益ではない。それはエコシステムのロックインである。
ユーザーがGmailやGoogleドキュメントの中でAIを日常的に使うようになれば、他社ツールへの乗り換えコストは飛躍的に上昇する。
・データ蓄積
・操作習慣
・業務フロー依存
これらが強力なスイッチングコストになる。経営戦略の観点から見れば、AIは「利益商品」ではなく、「接着剤」だ。検索、広告、クラウド、Workspaceという巨大なプラットフォームを束ねる接着剤である。
グーグルはAIを“魔法の技術”として売る段階から、“生活インフラ”へと位置づけを転換した。
ここで浮上するのが、新たな格差の問題だ。1,200円で業務を効率化する層。3,000円でAIを武装し、10人分の価値を生む層。
この差は単なる月額1,800円の違いではない。アウトプットの質とスピードが市場価値に直結する時代において、サブスク料金が人的資本の差を拡張する可能性がある。
「企業は従業員にどのレベルのAIを持たせるかで、生産性格差が生まれます。個人でも、AI投資を“経費”と考えられるかどうかで将来の年収が変わるかもしれません」(同)
AIは特別なスキルではなく、「標準装備」になる。そのとき、装備のグレードが競争力を左右する。
Google AI Plusの登場は、AIが特別なテクノロジーから「ビジネスの文房具」へと変わったことを象徴している。もはや議論は、「AIを使うか使わないか」ではない。
・どのレベルのAIを装備するか
・どの業務をAI前提で再設計するか
・AIをコストではなく投資と見なせるか
グーグルは1,200円という価格で、市場の“常識”を再定義した。AIは魔法ではない。だが、水道のように止められなくなる。
2026年、私たちはAIを「使う側」から、「選ぶ側」へと立場を変えつつある。その選択が、ビジネスの未来を分岐させる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)