つまり、コンテンツ力が広告費を上回る可能性が生まれている。
なぜ今、SNSとECの融合が急速に進んでいるのか。背景には、従来のネット広告モデルの限界がある。
デジタルマーケティング業界では、ここ数年で「検索広告のROIが悪化している」という指摘が増えている。最大の要因は、顧客獲得単価(CPA)の上昇だ。検索連動型広告はオークション方式で価格が決まるため、競合が増えるほど広告費は高騰する。特に美容、健康食品、家電などのカテゴリではクリック単価が数百円に達するケースも珍しくない。
さらに問題なのは、検索ユーザーの性質だ。ECモール内で検索するユーザーは、すでに「何を買うか」を決めていることが多い。そのため検索結果では、同じカテゴリの商品が並び、スペックや価格で比較される。結果として、多くの企業が価格競争に巻き込まれる。
戦略コンサルタントの高野輝氏は次のように指摘する。
「検索広告は、すでに購買意欲の高いユーザーを取り込める一方、競争も激しい。特にECモール内では、商品の差別化が難しく、最終的に価格競争へ陥りやすい。これが多くの中小メーカーの利益率を圧迫している」
ディスカバリーECの最大の特徴は、買う予定がなかった人を顧客に変える点にある。SNSユーザーの多くは、暇つぶしや情報収集のために動画を視聴している。つまり、最初から商品を探しているわけではない。
しかし動画の中で商品の使い方、開発ストーリー、実際の使用感などを視覚的に伝えることで、「これ、いいかも」という感情が生まれる。
ECサイトの静止画像やスペック表では難しい感情訴求型の販売が可能になる。
「ディスカバリーECは、検索というフィルターを通らないため、他社商品との比較が起きにくい。最初に『欲しい』と思わせたブランドが、そのまま購入につながりやすい」(高野氏)
つまり企業にとっては、価格競争に入る前の段階で顧客を獲得できるというわけだ。
この構造は、特に中小企業にとって大きな意味を持つ。従来のECでは、大手企業が広告費で検索結果の上位を独占する傾向があった。
しかしディスカバリーECでは、アルゴリズムがコンテンツを拡散するため、必ずしも資本力が勝敗を決めるわけではない。商品ストーリーや製造工程、開発者の思いなど、中小企業ならではの「物語」がむしろ強みになる可能性がある。
例えば、地方メーカーの職人技、食品メーカーの産地ストーリー、小規模ブランドの独自コンセプトといった要素は、動画コンテンツとの相性が極めて良い。マーケティング業界では、すでに「広告よりコンテンツ」という言葉が広がり始めている。
日本のEC市場は現在、約20兆円規模といわれている。その中で、動画コマースやSNSコマースはまだ小さな領域にすぎない。
しかし海外では状況が大きく変わりつつある。中国ではライブコマースがEC売上の大きな割合を占め、米国でもTikTok Shopが急速に拡大している。今回のYouTubeと楽天の提携は、日本市場でも同様の変化が起きる可能性を示唆している。
つまりECの主戦場は、検索 → 発見へと移行しつつある。
今回のYouTubeと楽天の提携は、単なる機能追加ではない。それは、日本のEC市場において動画プラットフォームが販売チャネルになることを意味している。企業にとっては、ECサイトを「待ちの売り場」にするだけでは不十分になる。ユーザーが過ごす時間の中心にあるSNSや動画プラットフォームに、商品が入り込む必要がある。
中小メーカーにとっても、この流れは無視できない。むしろ、ブランドストーリーや製品のこだわりを伝えやすい中小企業ほど、動画コマースの恩恵を受ける可能性がある。
ECの競争は今、静かな転換点を迎えている。そして、その主役は必ずしも巨大企業とは限らない。
「検索で見つけてもらう時代」から、「動画で発見される時代」へ。この変化をいち早く取り込めるかどうかが、企業の次の10年を左右することになりそうだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)