注目すべきは、これが単なる別荘需要ではない点だ。観光業の拡大により、現地で働く人材の住宅不足が深刻化し、「生活のための住宅需要」が地価を押し上げている。
さらに北海道富良野市でも30%前後の上昇が見られ、ニセコの高騰を受けた投資マネーの流入が続いている。いわゆる「価格のスピルオーバー(波及)」が発生している状況だ。
「リゾート地はこれまで“非日常の空間”だったが、今は“働き、住む場所”へと変化している。この転換が地価の構造を大きく変えている」(秋田氏)
この動きは、日本の観光地が単なる消費地から、持続的な経済圏へと進化しつつあることを示している。
一方で、これまで地価上昇を牽引してきた地方中枢都市には変化の兆しが見える。札幌、仙台、広島、福岡といった「地方4市」は依然として上昇を維持しているものの、その勢いは明らかに鈍化している。
例えば福岡圏では、上昇率が前年の5.5%から4.3%へと縮小した。背景には、建築費の高騰や住宅ローン金利の先行き不透明感がある。価格が上昇し続けた結果、実需層の購買力との乖離が生じている。
「地価は最終的に所得や賃料に収れんする。実需が支えきれない水準に達すれば、上昇は自然と鈍化する」(同)
つまり、これまでの「人口増加=地価上昇」という単純な構図は成立しにくくなっている。
上昇が続く一方で、下落地点の動きはより明確な「選別」を示している。
石川県輪島市や珠洲市では、震災の影響を受けて最大で6%超の下落が確認された。また、静岡県や三重県など、津波浸水想定区域に含まれる沿岸部では、住宅地の需要が弱含んでいる。
従来は利便性が優先されていたが、現在は安全性が価格に直接反映される傾向が強まっている。
「不動産は長期保有資産である以上、災害リスクは割引率として価格に織り込まれる。リスクが顕在化した地域では、その影響は不可逆的になりやすい」(同)
この傾向は、今後さらに強まる可能性がある。
今回の公示地価で見逃せないのが、工業地の上昇である。前年比+3.5%と、住宅地や商業地を上回る伸びを示した。
背景には、EC市場の拡大による物流施設需要の増加に加え、製造業の国内回帰がある。サプライチェーンの再構築が進む中、工場用地や物流拠点の確保が重要課題となっている。
不動産戦略の観点では、こうした産業インフラに近接する土地の価値が相対的に高まる。
「人が住む場所」だけでなく、「モノを動かす場所」「生産する場所」を起点に地価を考える必要があるということだ。
土地の価値は、もはや一律に上昇するものではなくなった。半導体、観光、物流といった成長産業と結びついた土地は大きく上昇する一方、それ以外の地域は伸び悩む、あるいは下落する。市場は急速に選別を強めている。
かつては「都心」「駅近」といった条件が価値を決定づけていた。しかし現在は、その土地がどのような経済活動を生み出すのか、すなわち収益力が最も重要な評価軸となっている。
2026年の地価は、日本の不動産市場が「場所の時代」から「機能の時代」へと移行したことを明確に示している。今後は、立地そのものではなく、その土地が持つ産業的・経済的な役割を見極める視点が不可欠となるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)