実際の利用者の声も、この対面対応の価値を裏づける。ある利用者は「ゴルフ場でもつながる」とドコモ回線の安定性を評価しながら、「店舗のスタッフに手取り足取り教えてもらえる」ことが乗り換えを決めた理由の一つだと語っている。
総務省がMNO各社に対して競争を促す政策を進める中、大手キャリアもオンライン完結型サービスの普及を推進してきた。しかしそのアプローチが「デジタル格差」の問題を浮かび上がらせた側面もある。スマートフォンの設定操作に不安を覚える人々、手続きの意味を丁寧に説明してほしい人々に対して、オンライン専用チャネルは必ずしも十分に応えてこられたとは言いがたい。その隙間を、イオンモバイルは生活の場での対面接点という形で埋めてきた。
イオンモバイルのもう一つの強みは、イオングループが持つ生活基盤との親和性だ。2023年4月からイオン生活圏(イオングループのサービス群)との連携を段階的に拡大しており、2025年度の純増ユーザーのうち81.6%が「イオン生活圏」のユーザーだったというデータは、この方向性が着実に成果を出していることを示している。
イオンカード特典、住宅ローン契約者向け特典、株主優待特典、月額100円から加入できるスマホ保険など、グループ資産を活用した施策を次々と投入してきた。さらに2026年3月利用分からは、イオンモバイルの月額料金をイオンゴールドカードで支払うと毎月5%割引になる「イオンゴールドカード割」の提供も開始した。
これはポイント経済圏を「空中戦」で展開する楽天モバイルや、通信を起点に金融と融合したサービスを展開するドコモとは、出発点が根本的に異なる戦略だ。イオンは毎週何十万人もの生活者が訪れる店舗網を「通信の接点」として活用することで、資本を集中させた基地局投資なしに、圧倒的な顧客との物理的接触頻度を確保している。
高野氏は消費者行動の観点から次のように指摘する。
「イオンの消費者との接点は、購買行動と日常生活が重なり合う場所にあります。そこで通信サービスと決済・金融が結びつくと、スイッチングコストは単なる”面倒”の域を超え、生活動線そのものに組み込まれるわけです。これは通信会社が単独では作りにくい競争上の堀といえます」
足元の好調な数字の一方で、課題も明確に存在する。2024年9月末時点のMVNO市場シェアでイオンモバイルは5位に位置しており、絶対的な規模ではまだ大手MVNOとの開きがある。若年層の取り込みも依然として限定的で、スマホを「当たり前のように使いこなす」世代にとって、対面サポートの価値は相対的に低い。競合他社がAIを活用した自動プラン最適化や料金のさらなる低廉化を進める中で、イオンモバイルがどこまで独自性を保てるかも問われる。
それでも同社は、2029年3月末までに100万回線という中期目標を掲げた。IIJやmineoなど先行するMVNOの実績を踏まえれば容易な道のりではないが、「通信の『点』で売るのではなく、生活のインフラの一部として提供する」という方向性がイオンモバイルのポジションを形作っていることを考えれば、不可能な数字とも断言しきれない。
MVNO市場が「価格競争」から「生活圏への統合」へと軸足を移す中で、イオンモバイルが示した仮説はシンプルだ。人々の日常に深く入り込んだインフラとの融合こそが、価格だけでは作れない顧客ロイヤルティを生む。解約率1.19%という数字は、その仮説が机上の論理ではなく、生活者の行動によって裏づけられている事実を物語っている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)