トヨタがBYDと組む最大の理由は、「時間軸の調整」にある。トヨタの全固体電池搭載EVは早ければ2027〜2028年に市場投入される可能性があり、スケジュールは野心的ながら現実味を帯びてきた。その本命技術が実用化されるまでの「空白の数年間」を、中国で培ったEV技術で埋める——これがトヨタの二段構え戦略の核心だ。
日産——中国を「輸出拠点」へ転換
日産のアプローチはさらに踏み込んでいる。2025年6月、日産(中国)投資公司と東風汽車は輸出目的の合弁会社を設立すると発表。資本金10億元(約2,200億円)、出資比率は日産60%・東風40%で、中国製の完成車や部品のグローバル供給を加速する戦略の一環だ。中国で生産するEVの中国外への輸出は2026年内に始まる計画だ。
日産のエスピノーサ社長は「東風汽車との合弁にはスピード、技術、コスト競争力という3要素がある」と語り、中国での知見を全社に広げる方針を明言している。かつて「技術の日産」と謳われたブランドが、今や中国のスマート技術を逆輸入しようとしている——その構造転換は、業界の地殻変動を象徴している。
「ホンダの今回の選択は、EV先行投資の損切りと合弁資産の有効活用を同時に実現する現実的な判断です。ただし重要なのは、この『橋渡し期』に何を学び取るかです。中国のEVエコシステムは、電池・ソフトウェア・製造の三位一体で競争力を構築しており、そのどれか一つを借用するだけでは根本的な競争力にはなりません」(同)
こうした動きの背景には、日本のEV普及の鈍さという現実がある。2025年通年の日本のEV(BEV+PHEV)シェアは2.66%にとどまり、世界平均の27.7%と比べて約10倍の差が開いている。
充電インフラも追いついていない。2024年には急速充電器が12,313台、普通充電器が73,089台、合計85,402台に達し、前年比58%増という急拡大を記録したものの、欧州や中国と比較すれば整備は途上にある。日常の「充電の不安」が普及の壁として依然として残っている。
一方で、市場に変化の兆しも見え始めている。2026年はフルモデルチェンジした日産リーフやトヨタbZ4Xに加え、スズキ「eビターラ」、BYD「ラッコ」など幅広いユーザー層が手の届きやすい新型EVの発売が相次ぐ予定で、遅れていた日本のEV普及がいよいよ加速するとの見方がある。
ここで注意すべきは、「中国産EV」への懸念が単なる品質論に留まらないことだ。地政学的リスク、サプライチェーンの対中依存、そして国内産業の空洞化——これらは産業政策上の課題として、今後ますます議論を呼ぶだろう。ただし現時点では、日本が関税や輸入規制で中国製EVを締め出す動きには至っておらず、むしろ補助金制度が国産・外国製を問わず広く適用される構造になっている。
短期的に中国技術を取り込みながら、中長期では独自の強みで逆転を図る——これが日本メーカー3社に共通する「二段構え戦略」の骨格だ。
その逆転の切り札として期待されるのが、全固体電池とSDV(ソフトウェア定義車両)技術だ。トヨタと出光興産は固体電解質の量産技術開発で協業しており、2027〜2028年の全固体電池搭載車の市場投入をより確実なものにすることを目指している。エネルギー密度の大幅向上と充電時間の短縮が実現すれば、EV体験を根底から変える可能性を秘めている。
ソフトウェア面ではソニー・ホンダモビリティが展開する「AFEELA」ブランドが、エンターテインメントとモビリティを融合した新しい車の定義を模索している。車の価値が「エンジン性能」から「ソフトウェアとユーザー体験」へと移る中で、日本メーカーが蓄積してきた品質管理・安全設計のノウハウを、いかにソフトウェア時代に読み替えられるかが問われている。