ホンダは2030年に、自社総販売台数の約15%にあたる年間350万台レベルの電動二輪車の販売を目指している。二輪という「主力事業」をEV転換の試験場として活用しながら、バッテリーインフラ事業者としての地位を確立していく——この二段構えの戦略こそが、ホンダが新興国市場で生き残るための現実解となりつつある。
ホンダのDNAには、創業者・本田宗一郎以来の「自前主義」が深く刻まれている。エンジン技術の自社開発にこだわり、合従連衡よりも独立独歩を重んじてきた。その矜持が、いま大きく揺らいでいる。
2024年12月、日産自動車とホンダは共同持株会社設立による経営統合を検討する基本合意書を締結し、三菱自動車も統合への関与を検討する覚書を結んだ。しかし協議は想定外の早さで暗礁に乗り上げる。ホンダが株式交換による経営統合を提案し、ホンダを親会社、日産を子会社とする体制への変更を模索したが、2025年2月に協議は中止となった。
統合が破談に終わった主因は「力の非対称」への抵抗だった。日産側がホンダの完全子会社化に応じることを拒否し、意思決定スピードを重視したホンダ側もこれ以上の時間消費を嫌った。「大山鳴動してネズミ一匹」と揶揄する声もあったが、今後も両社は2024年8月に締結した戦略的パートナーシップに基づき、電動化・知能化分野での連携を継続し、新たな価値創造を目指す。完全統合ではなく「機能別の水平連携」という形で、協力関係は継続している。
一方、商用車領域での連携はより実務的な段階に入っていた。いすゞ自動車はホンダと共同開発していた燃料電池車(FCV)の大型トラックを、当初予定の2027年めどから延期することを決定。水素ステーションの整備が遅れているほか、技術的な課題が解消されていないと判断した。
この延期を「失敗」と見るのは早計だ。大型車ではバッテリー重量や充電時間の制約からEVよりFCVが有利とされ、長距離輸送の脱炭素手段として注目される構図は変わっていない。「乗用車はEV、商用車はFCV」という棲み分けの論理は市場でも受け入れられつつあり、インフラ整備と技術成熟を待ちながら「勝てる市場」を見極める姿勢は、むしろ成熟した戦略判断といえる。
「ホンダが日産との完全統合を諦め、機能ベースの水平連携に切り替えたことは現実的です。統合のガバナンスコストは膨大で、ソフトウェア開発のスピードを優先するなら、機能ごとのアライアンスの方が有効な場合もある。いすゞとの燃料電池協業も、商用物流という特定ドメインに絞った連携であり、目的が明確です」(同)
今回の「損切り」は終着点ではなく、むしろ「次の賭け」のための資源解放だ。ホンダが描く2030年の設計図には、独自の野心が宿っている。
その中核をなすのが「Honda 0 Series(ゼロシリーズ)」だ。「Thin, Light, and Wise(薄く、軽く、賢く)」という開発アプローチを掲げ、独自のプラットフォームにより、車高を抑えたデザインとゆとりある室内空間を両立させる。北米で中止が決まったEV3車種は、外部調達バッテリーに依存したモデルだった。対して0シリーズは、ホンダ独自のEEアーキテクチャと自社製バッテリー技術を前提に設計された「次世代の本命」と位置づけられている。
そのバッテリー戦略の鍵を握るのが全固体電池だ。栃木県さくら市の本田技術研究所に約430億円を投資してパイロットラインを構築し、2025年1月から稼働を開始した。ホンダはこの全固体電池を四輪車に用いるだけでなく、二輪車や航空機など自社が手がけるさまざまなモビリティに適用することで、スケールメリットを生かしたさらなるコスト低減が期待できるとしている。