オートバックス「中国製EV」販売の狙い…日本のEV市場の現在地と逆転の勝ち筋

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●この記事のポイント
オートバックスセブンが奇瑞汽車など日中5社と合弁会社EMTを設立し、2027年から日本独自EVブランドを投入する計画を解説。日本のEV新車シェアが2025年に2.66%と2年連続低下するなか、全国約1,200店舗の整備網を武器にインフラ側からEV普及を牽引する戦略と課題を多角的に検証する。

 2026年5月、自動車業界に一つのニュースが走った。カー用品大手のオートバックスセブン(東証プライム)が、中国自動車大手・奇瑞汽車(チェリー)など日中5社と合弁会社「EMT」(横浜市)を設立し、2027年をめどに日本独自の新EVブランドを投入する方針を固めたと複数メディアが報じたのだ。

「なぜカー用品店が、EVを?」——多くの読者が抱くこの疑問こそ、この戦略の核心を突く問いである。本稿では、オートバックスの動きが単なる事業多角化でなく、技術変革期における「インフラ企業としての生存戦略」である側面と、その前提となる日本のEV市場の構造的な課題を、データをもとに多角的に検証する。

●目次

オートバックスはなぜEVに向かうのか

 オートバックスのEV参入は、今回が初めてではない。2021年10月には小型商用EV「ELEMO(エレモ)」を手がけるスタートアップのHW ELECTROに約1億円を出資し、同社製EVの販売・メンテナンス拠点としての活用を検討し始めていた。当時、同社の小林喜夫巳社長(現任)は「EV市場に早期参入し、販売・メンテナンスのノウハウを得ることでEV市場における競争力を高めたい」と明言している。

 今回の奇瑞との連携はその延長線上にある。合弁会社EMTでは、日産自動車でかつて初代「リーフ」の開発を担った山本浩二氏が最高技術責任者(CTO)に就くなど、単に中国製をそのまま輸入するのではなく、日本市場向けに再設計した新型EVを開発・投入する構えだ。まず中国工場で生産し、2030年以降は国内生産も視野に入れている。オートバックス側は「決定事項はなく、可能性の検討段階」と慎重なトーンを保っているが、その一方でEMTへの出資という既成事実も生まれている。

 この慎重姿勢と積極的関与の並走には、それなりの合理性がある。現在オートバックスは国内外で約1,200店舗を展開し、車検・整備から中古車流通まで手がける「モビリティ・インフラ企業」へと転身を図っている。エンジンオイルやカー用品の需要は、燃費改善やEVシフトによって長期的に縮小が避けられない。危機感を持つ経営陣にとって、EVという成長市場への参入は「オプション」ではなく「必然」に近い選択なのだ。

中国EVが超えられなかった「壁」をどう崩すか

 これまで中国製EVが日本市場で存在感を高められなかった最大の理由は、技術力でも価格でもなく、「販売・整備インフラの欠如」にある。BYDは2023年から乗用EV3車種を日本に投入したが、2025年1月時点の月間販売台数は42台と振るわなかった。正規ディーラーが限られ、「故障したらどこへ持っていくのか」という消費者の不安を払拭できていないことが大きい。

 オートバックスとの連携が意味を持つのは、まさにここだ。全国約1,200店舗という既存ネットワークを活用すれば、新ブランドは「ゼロからのインフラ整備」というコストを負わずに済む。

 モビリティ産業に詳しい自動車アナリストの荻野博文氏は、この構造をこう説明する。「EVビジネスで最もキャッシュフローが安定するのは、車両を売った後のサービス収益です。車検、タイヤ、バッテリー診断、定期点検——これらはリカーリング(継続課金)型の収益です。オートバックスはその仕組みをすでに持っている。中国メーカーにとって最も困難なラストワンマイルを、パートナーが最初から担保してくれる構造は、ビジネスモデルとして非常に合理的です」