AIを動かす「1ナノの物差し」…世界シェア70%、日立ハイテクが握る半導体計測

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●この記事のポイント
AIチップ製造に不可欠な半導体計測装置「CD-SEM」で世界シェア約70%を握る日立ハイテク。0.1ナノメートル精度の測定技術がAI量産を支える構図と、中国の国産化加速・輸出規制強化が招く地政学リスク、そして露光装置でのニコン敗退が示す「勝利の罠」を多角的に考察する。

 19世紀のカリフォルニア・ゴールドラッシュで最も財を成したのは、砂金を掘り当てた採掘者ではなく、スコップやジーンズを売った商人たちだったといわれる。現代のAIブームに置き換えるなら、NVIDIAのGPUやTSMCの先端ファウンドリがスポットライトを浴びる一方で、それらを陰で支える「物差し屋」に光が当たることは少ない。

 その「物差し屋」の代表格が、日立ハイテクだ。同社は「見る・測る・分析する」をコア技術とし、半導体製造装置や科学機器を軸にグローバル展開する企業で、2025年3月期の売上収益は7,565億円を記録している。なかでも同社の主力製品であるCD-SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope、測長走査型電子顕微鏡)は、AIチップ量産を下支えするインフラとして、半導体業界の内外から注目を集めている。

●目次

「見えなければ作れない」——0.1ナノメートルの闘い

 半導体の回路線幅は現在、最先端品で2〜3ナノメートル(nm)の水準に達しようとしている。1ナノメートルとは10億分の1メートル、シリコン原子数個分に相当する極微の世界だ。ここまで微細化が進むと、光学顕微鏡はもはや役を果たせない。光の波長そのものが、測定したい対象物より大きいからだ。

 そこで登場するのが、電子線(電子ビーム)を使ったCD-SEMである。CD-SEMは走査型電子顕微鏡の技術を応用し、ウェーハ上に形成された微細パターンの寸法を高精度に計測するために特化した装置だ。最終製品としての半導体が優れているかどうかは、この測長SEMの性能次第ともいえる。

 精度の要求は凄まじい。製造ばらつきの許容範囲が1〜2nmの場合、測定装置の誤差(機差)はその10分の1、つまり0.1nmまで抑え込まなければならない。複数の装置間でこのレベルの誤差管理を維持することが求められている。

 地球の周長(約4万km)に対して0.001mmのズレを検出するに等しい精度、とでも言えば、その非現実的な困難さが伝わるだろうか。しかしそれが、量産ラインでは「当たり前」の要件として課されている。

 元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は次のように語る。

「計測装置は、製造プロセスの『前提条件』です。歩留まり(良品率)を1%改善するためには、まず何が起きているかを正確に把握しなければなりません。測れない問題は解決できない。計測装置は品質管理ツールではなく、製造インフラそのものです」

「すり合わせ」の極致が生んだ7割シェア

 測長SEMの世界市場において、日立ハイテクはシェア70%を誇るトップ企業だ。1984年の1号機発売以降、高画質像や高い計測性能が評価され、この世界シェアを維持し続けており、累積出荷台数は6,000台を突破した。

 なぜ日本企業が、この分野でこれほどの圧倒的地位を築けたのか。

 一つには、電子光学系の制御技術がある。電子線を原子スケールで制御し、試料にダメージを与えず、安定した測定値を出し続けるためには、真空技術、振動制御、電子銃の設計が高水準で「すり合わさって」いなければならない。これはデジタルで記述・移転しにくい暗黙知の塊であり、長年の蓄積が参入障壁を形成する。