ロッテの野津氏は、インドネシアでのキシリトールガムを例に挙げた。3色のパッケージデザインが「LGBTQを連想させる」と現地から指摘を受け、修正した。ブラックアンドホワイトのチョコがアメリカで人種的な文脈で問題視されそうになったこともある。「現地からの指摘で気づくことが本当に多い」と野津氏は語る。
ただ、日本の強みをやすやすと手放してはいけないとも続けた。日本のSNSユーザーは「失敗したくない」という動機でリサーチする。一方、東南アジアでは「よりいいものを見つけたい」という加点志向が強い。その違いを踏まえてインフルエンサー施策を厚くしながら、日本の品質というDNAは変えない。「グローカライズ」という言葉に、ロッテの現在地が凝縮されている。
ダイキンの片山氏が語ったのはインドでの教訓だ。インドは停電が多い。エアコンが落ちて再起動を繰り返すと機器が劣化する。日本では想定しない前提が、現地では最大の課題だった。
「日本では考えもしないことが、現地では一番困っていることだったりする」
技術を持ち込んだだけでは評価されなかった。停電に強い専用機を開発し、そのベネフィットをコミュニケーションの中心に据えて初めて市場が動いた。同じ発想で開発した製品は、停電の多い他国へも横展開されている。
もう1つ、片山氏が打ち明けた話が会場の笑いを引いた。キャラクター「ぴちょんくん」がいつの間にかタイで「妹」を持っていた件だ。現地スタッフが文化に合わせて独自にアレンジしていたのだが、誰の許可も取っていなかった。「それ以降はちゃんとやっています」と片山氏は苦笑した。ただその「勝手な妹」こそ、ローカルへの愛着が現地から自然発生した証でもあった。
KADOKAWAの石原氏は「弱者の兵法」という言葉を使った。強いIPを自前では持たないからこそ、現地に入り込み、現地の人の気持ちを掴めるようになるしかない。その発想が、社名を冠しない現地法人を積極的に設立することにつながっている。今や小学館・集英社・講談社をはじめ他社のIPを預かり世界展開する事例も増えている。
しかし、作品の現地化については、線引きが難しい。「現地に寄せよう」という下心で作り始めた作品は、ファンから「自信を持って日本の漫画を作れ」と怒られる。
「変に寄せた結果、誰からも支持されないケースは多々あります。日本で強いものを自信を持って作ることが、結局は現地でも響く」
東京は「何のためにやるか」という目的と素材の監修にとどめ、コミュニケーションの手法は完全に現地に委ねる。その分権が、スピードと現地適応を両立させている。
後半のパネルには、シンガポールのイヴォン・コー氏、タイのソフィス・カセムサハシン氏、フィリピンのマリン・モリーナ氏が登壇した。
フィリピンのモリーナ氏が持ち出したのは、具体的な数字だった。日本人の1日あたりのSNS滞在時間は約53分。フィリピン人はその約4倍、3時間24分だ。
「フィリピンでは53分で信頼を作り始められるかもしれない。でも3時間半の会話を成立させなければ、意味がない」
フィリピンはZ世代とミレニアル世代が投票人口の73%を占める、東南アジアで最も若い国だ。コミュニティ志向が強く、家族や友人とのつながりの中で情報が流通する。日本ブランドへの信頼は高い。しかし「好きな日本ブランド」を聞くと歴史のある定番しか出てこない。信頼がまだ、熱量のある認知に転換されていないわけだ。
シンガポールのコー氏は「小さくて、遠くまで届く市場」という表現を使った。人口600万人の小市場だが、シンガポールでの企業評判はアジア全域に波及する。ESGやコーポレートガバナンスへの関心が高く、社会的インパクトを軸にブランドを構築することがアジア全体への信頼の礎になると語った。