
●この記事のポイント
6月1日開催の「Asia Insight 2026」で、味の素、ロッテ、ダイキン、KADOKAWAの実務責任者とASEAN各国のPR専門家が、日本企業のアジア戦略を議論した。本田哲也氏は「ローカルインサイトの欠如」を最大の課題に挙げ、味の素は31カ国・地域で培った現地主義を紹介。フィリピンのSNS利用時間3時間24分というデータも示され、日本ブランドの信頼を売上へ転換するための条件が浮き彫りになった。
本田哲也氏は、日本のPR業界でその名を知らない人はいない。P&G、トヨタ、資生堂、サントリーなど国内外の大手企業のPR支援を手掛け、PR専門メディア『PRWeek』が選ぶ「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にも選出された人物だ。2006年に戦略PR会社ブルーカレント・ジャパンを創業し、2009年に上梓した『戦略PR』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はマーケティング界隈のバイブルとなった。
その本田氏が2023年、拠点を東京からシンガポールへ移した。日本企業がアジアで勝つための支援をする、というのがその理由だ。そして2026年、ASEAN6カ国のPR専門家を束ねるネットワーク「PR Collective Asia」を立ち上げた。
6月1日、大手町三井ホールに約300名が集った。そのPR Collective Asia発足を記念するビジネスカンファレンス「Asia Insight 2026」。味の素・KADOKAWA・ダイキン工業・ロッテの実務リーダーと、ASEAN各国のPRストラテジストが一堂に会し、「アジアで日本企業はどう戦うか」を問い直した。
本稿では、4つのセッションを通じて浮かび上がった論点を報告する。
●目次

冒頭に立ったのは、本田事務所代表取締役の本田哲也氏だ。PRの仕事25年、3年前にシンガポールへ拠点を移した氏は、まず数字を示した。
ASEAN(東南アジア諸国連合)の人口は総計約6億人。GDPは10年で倍近くに拡大している。日本に対する好感度調査では、アジア各国の消費者の8〜9割が肯定的な回答を示す。
「日本の先輩方が積み上げてきた信頼は、今でも我々の強力な追い風になっています」
一方、課題も明確にした。アジアは1枚の板ではない。宗教、言語、メディア環境、消費行動……あらゆる軸で各国は異なる。日本企業はこれまで、1億2000万人の同質的な市場でマスマーケティングを磨いてきた。その成功体験が、そのままアジアでは通用しない。
本田氏が示したのが大塚製薬・ポカリスエットのインドネシア事例だ。日本での定番訴求=運動後の水分補給、二日酔い後の回復は、イスラム圏で運動習慣が少なく飲酒もしないインドネシアではほぼ機能しなかった。転機はラマダンだった。断食による脱水症状に着目し「ラマダン明けに最適な飲み物」として訴求を切り替えた結果、約2億人に関係するメッセージが生まれた。
「ブランド名もデザインも変えていない。変えたのは、その土地が何を信じているかへの向き合い方だけです」
ローカルインサイトとは、消費者心理の話だけではない。その社会が誇りを感じていること、信じていること、恐れていること。そこまで踏み込まなければ次のステージへはいけないと、本田氏は言い切る。