全体では43.1%増という力強い伸びを見せた東北だが、県別の内訳を見ると明暗ははっきりと分かれる。
※県名、2025年消費額(前年比)、特徴
・宮城県 475億4,900万円(+53.9%):仙台空港・仙台駅を核とした広域交通のハブ機能を持ち、周遊拠点として消費が集中
・青森県 約193億円(増加):台湾との直行便増便、りんごなど地域ブランドの浸透が寄与
・山形県 147億5,400万円(+62.0%):蔵王の樹氷やスキーなど冬季コンテンツと高単価な温泉旅館消費の組み合わせ
・岩手県・福島県 堅調に増加:チャーター便再開など個別の路線施策が下支え
・秋田県 約45億円(唯一前年を下回る):6県の中で唯一、2024年実績を割り込んだ
とりわけ目を引くのが宮城県への一極集中である。東北全体の消費額1,062億円のうち、宮城1県で約45%を占める計算になる。日本経済新聞も、宮城以外の5県への波及効果や、県をまたぐ滞在日数の短さを課題として指摘しており、東北運輸局自身も複数県をまたぐ周遊促進を今後の重点課題と位置づけている。
一方で秋田県は、外国人延べ宿泊者数そのものは月によって全国トップクラスの伸びを記録する局面もあったにもかかわらず、年間の消費額では6県中唯一前年割れとなった。宿泊者数の増加が必ずしも消費額の増加に直結していない点は、東北全体が抱える「稼ぐ力」の課題を象徴しているといえるだろう。
「同じ東北でも、交通結節点を押さえた県と、キラーコンテンツを一つでも国際的な知名度に育てられた県とでは、消費の集まり方がまったく違います。逆に言えば、宿泊者数が伸びても地域内での消費機会(飲食・体験・夜間消費など)を用意できなければ、数字は積み上がらないということです」(同)
人数の伸び(宿泊者数23.8%増、東北運輸局速報ベースでは21.8%増ともされる)以上に消費額(43.1%増)が伸びているという事実は、費目別の内訳を見るとより鮮明になる。
宿泊費:404億1,400万円(前年比63.9%増)――全費目の中で最大の伸び。素泊まりではなく、高価格帯の温泉旅館やリゾートホテルへの宿泊単価上昇が背景にある。
買物代:233億4,500万円(同44.7%増)
飲食費:192億300万円(同34.4%増)――地域ブランドの牛肉や地酒、フルーツなど、地場の食文化への消費が拡大している。
宿泊費の伸びが突出している点は、東北のインバウンドが「安く長く泊まる」から「高くても価値のある宿に泊まる」へと質的に転換しつつあることを裏付けている。
東北のインバウンド急伸は、人数を大量に呼び込んだ結果というより、既存の近距離リピーター市場に対して、冬季コンテンツや高付加価値な宿泊体験を提供できたことによる「質の転換」だと整理できる。
その一方で、データは東北が抱える課題も同時に映し出している。宮城県への消費の一極集中、単価の絶対水準では関東・近畿にまだ及ばないこと、そして秋田県のように宿泊者数の伸びを消費額に転換しきれていない地域が存在すること――これらは、東北全体を「成功事例」として一括りにできないことを示している。
東北運輸局は2026年4月、2026年度から2030年度までを対象とした新たな計画の中で、インバウンド消費額を2,000億円規模に引き上げる目標を掲げている。現状の1,062億円からこの目標を達成するには、宮城県以外の5県にどう周遊需要を波及させるか、そして単価の低い県がいかに「消費機会」を地域内に作り出せるかが、今後の焦点になるとみられる。
地方誘客の鍵は、むやみな認知拡大ではなく、「ターゲットの先鋭化(リピーター層の深耕)」と「一人当たり滞在価値の最大化」にある。東北の1年間の変化は、他の地方都市がインバウンド戦略を組み立てるうえでの、一つの現実的な参照点になりそうだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)