BYD「ラッコ」、43万円の補助金ハンデを粉砕… 日本メーカーの軽市場は崩れる?

 経産省の業務実施細則によれば、評価項目は大きく分けて、車両の電費・航続距離といった性能面に加え、①公共用急速充電器の整備への貢献度、②自社の販売台数に応じた充電インフラ整備、③整備士教育など供給・サイバーセキュリティ体制、④GX(グリーントランスフォーメーション)推進に向けた鋼材の導入——といった、メーカーの国内事業基盤への貢献度を評価する定性的な項目が含まれる。長年かけて全国に急速充電網とディーラー整備体制を築いてきた国産メーカーほど高得点になりやすい設計だ。

 この結果、日産サクラは満額に近い58万円の補助を受けられるのに対し、日本参入からまだ日が浅いBYDは、車格を問わず一律15万円にとどまる。両者の差は43万円。かつてBYDのドルフィンやATTO3も、2025年度は65万円程度だった補助額が2026年度は35万円程度まで減額されており、国内での充電・整備インフラ実績が乏しい輸入EVに対して、制度が相対的に厳しく働く傾向がうかがえる。

 もっとも経産省は、この見直しについて「メーカーの努力が足りていない」との立場を示しており、外資排除を意図した制度ではなく、あくまで国内EVエコシステムへの貢献度を測る指標だと説明している。是非の評価は分かれるところだが、結果として輸入EVが不利になる構造が生まれているのは事実だ。

 ところがBYDは、この43万円のハンデを車両本体価格の安さでほぼ相殺してみせた。ラッコのエントリーグレードは214万5000円。対する日産サクラの主力グレード「X」は239万9100円、上位「G」は294万300円(いずれも税込)。車両本体価格の時点で20万〜80万円ほどラッコが安く、そこに55万円の補助金差が乗ってもなお、実質負担額は両車ともほぼ200万円前後に収れんする。国が張った「43万円の防波堤」を、製造コストの差で押し返してきた格好だ。

「補助金の設計自体は、充電インフラという公共財への貢献を評価する合理的な仕組みだ。問題は、BYDのような垂直統合型メーカーが、そのハンデを補って余りあるコスト競争力を持っている点にある。制度で時間は稼げても、製造原価の差は制度では埋められない」(同)

価格だけではない…装備モリモリ+世界初級SDVという製品力

 ラッコの訴求点は価格だけにとどまらない。ボディタイプは軽自動車で最も支持されるスーパーハイトワゴンで、両側電動スライドドアを標準装備する。日産サクラや三菱eKクロスEVには無い装備であり、送迎や買い物といった実用シーンでの使い勝手は明確に上回る。

 技術面では、BYDが得意とするリン酸鉄リチウムイオン「ブレードバッテリー」を採用し、バッテリーを車体構造の一部として活用する「CTB(Cell to Body)」と、バッテリー・車載充電器・DC-DCコンバーター・制御系を高密度に集約した新設計「X-PACK」を組み合わせる。車体には約70%の高強度鋼板を使用し、限られた軽自動車サイズの中で安全性と室内空間の両立を図ったという。

 ソフトウェア面では、SDV(Software Defined Vehicle)ベースで設計され、OTA(無線通信)による車載ソフトウェアのアップデートに対応する。購入後も機能が更新されていく設計思想は、これまでの国産軽自動車にはあまり見られなかったアプローチだ。

 給電機能も充実しており、車から家電製品へ給電できるV2L(Vehicle to Load)、車を家庭用蓄電池として使うV2H(Vehicle to Home)にも対応する。ただし、V2Lはアダプター、V2Hは専用の据置設備と電気工事が別途必要で、200V充電ケーブルも全グレードでオプション扱いである点は留意したい。日産サクラも同種の給電機能を備えているため、この点は両者の差別化要素というより「軽EVの標準装備になりつつある機能」と捉えるのが実態に近い。