BYD「ラッコ」、43万円の補助金ハンデを粉砕… 日本メーカーの軽市場は崩れる?

 航続距離(国土交通省審査値・WLTCモード)は、エントリーグレード「RACCO 200」が210km、上位の「300Plus」「300Premium」が320km。日産サクラの180kmと比べると、上位グレードは1.7倍以上の数値となる。「軽EV=航続距離が短い」という従来のイメージを塗り替える存在感を示している。

「軽自動車ユーザーの日常走行距離は片道30km未満が過半という調査結果を踏まえれば、サクラの180kmという設計も合理的だ。とはいえ、消費者心理として“数字の大きさ”が安心材料になるのも事実で、320kmという航続距離は購入検討層への訴求力が大きい」(同)

日産・ホンダ・スズキ・ダイハツはどう動くか

 日産・三菱自(先行組) サクラとeKクロスEVは、EVとして初めて軽自動車に本格参入した先駆者だが、スライドドア非搭載、航続距離180kmという仕様は、ラッコの上位グレードと比較されると見劣りする場面が増えそうだ。日産側の開発担当者はかつて、20kWhという電池容量について「日常利用の94%をカバーする」設計思想だったと説明しており、思想自体に一貫性はある。ただし競合が「大は小を兼ねる」仕様で参入してきた以上、次期モデルでの航続距離延長やスライドドア対応が焦点になるとみられる。

 ホンダ 同社は2024年に商用軽EV「N-VAN e:」、2025年に「N-ONE e:」を投入済みで、2026年5月の事業方針説明会では、看板車種「N-BOX」のEV版を2028年に発売すると正式に表明した。三部敏宏社長は「日本では軽自動車の使い方とEVの相性が良いことから、軽自動車からEVの拡充を図っている」と述べている。ただし発売は2年以上先であり、それまでの間、スーパーハイト軽EV市場の実質的な先行権はラッコに委ねられる形となる。

 スズキ・ダイハツ スズキは2026年3月、ダイハツ・トヨタとの共同開発による商用軽EV「eエブリイ」を発売し、同社ブランド初の軽EVとした。もっとも主力の乗用スーパーハイトワゴン(スペーシア、タント)のEV版は未発表で、両社は依然としてハイブリッドを含む内燃機関モデルの改良を軸にしている。BYDのようにバッテリーから車両組み立てまでを自社で一貫生産する体制を持たない国内メーカーにとって、電池コストの低減は共通の課題であり、対抗策の実行にはなお時間を要する見通しだ。

補助金で守れる時期は終わりつつある

 CEV補助金の設計は、国内の充電インフラや整備体制への貢献度を評価する、それ自体は合理性のある仕組みだ。しかし今回のラッコの価格設定が示したのは、そうした制度上のハンデを、垂直統合による製造コストの差でなお押し返せるという現実である。政府が補助金の評価軸で時間を稼いでいる間に、力のある新規参入者が価格そのもので追いついてくる構図は、他の家電・スマートフォン市場でも見られたパターンだ。

 もちろん、ラッコの成否はまだこれからだ。年間1万台という目標の達成度、実際の耐久性や中古車価値、全国的なアフターサービス網の構築状況など、検証すべき点は多く残る。また、ホンダのN-BOX EVをはじめ、国内メーカーも指をくわえて見ているわけではない。

 それでも、日本の新車市場の約4割を占める「軽自動車」という聖域に、海外メーカーが専用設計モデルで本格参入し、価格でも装備でも国産勢と正面から渡り合う土俵を作った意味は小さくない。今後の焦点は、国内メーカーがコスト構造そのものをどう変えられるか、そして政府の補助金制度が「国内産業保護」と「消費者利益・EV普及」のバランスをどう取っていくかにある。ラッコの登場は、その議論を待ったなしにする一台と言えそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)