この分野には複数のプレイヤーが参入している。米新興企業のStarcloudは2025年11月、エヌビディア製GPU「H100」を搭載した衛星「Starcloud-1」の打ち上げに成功し、軌道上でのAI処理を実証した。グーグルも自社AIチップ「TPU」を搭載した衛星を計画する「Project Suncatcher」を進めており、2027年初頭に試作機2基の打ち上げを予定する。アマゾン傘下のBlue Originも米連邦通信委員会(FCC)に軌道上データセンター構想を申請済みとされる。
スペースXはこの競争において、最大規模の構想を掲げている。同社はxAIとの連携のもとで軌道上AIコンステレーション「スターマインド」の商標を確定させたと報じられており、第1世代機「AI1」は平均消費電力約120kW・ピーク約150kW、太陽電池アレイの展開幅は約70メートルとボーイング747-8の全幅を上回る規模とされる。最終的には最大100万基規模の衛星群を2027年末までに展開すべく申請を進めているとの報道もある。ただし、この構想の実現時期はスターシップの完全運用化以降、2030年代初頭以降になるとの見方が業界内では一般的であり、現時点ではあくまで長期構想の段階にあることには留意が必要だ。
「軌道上データセンター構想は理論上の電力・冷却メリットは大きいが、放射線耐性のある半導体の確保や軌道上でのメンテナンス不能という制約など、地上とは異なるコスト構造を伴う。採算ラインを見極めるには、少なくとも数世代の実証機によるデータの蓄積が必要になるだろう」(情報通信の専門家で工学博士の岡崎大輔氏)
直接通信とレーザー通信網が完成させる閉域網
スペースXのもう一つの強みは、衛星から地上のスマートフォンへ直接通信する「Direct to Cell」(現スターリンク モバイル)と、衛星間をレーザーで結ぶ光衛星間通信(ISL)の組み合わせにある。Direct to CellはT-Mobileとの提携により2025年7月にサービスを開始し、メッセージングから広域データ通信へと機能を拡張してきた。一方でFCCは2026年4月、周波数拡張に関するスペースXの申請を一部保留しており、規制当局の判断が事業拡大のペースを左右する構図も見て取れる。
この直接通信網と、衛星間を高速・低遅延で結ぶレーザー通信網が組み合わさることで、地上の光ファイバー網や基地局に依存しない、宇宙空間で完結する広域通信網の輪郭が見えてくる。これが、通信とAI計算処理を一体で提供する構想の技術的な骨格である。
既存通信キャリアの立ち位置変化
NTTドコモやKDDI、米Verizon・AT&Tといった既存の通信キャリアは、地上の基地局網と光ファイバー網に巨額の投資を積み重ねてきた。しかし衛星直接通信が拡大するにつれ、これらのキャリアはスペースXやAST SpaceMobileといった衛星通信事業者との「競合」から、山間部や海上などの不感地帯を補完する「ラストワンマイル・パートナー」へと役割を再定義せざるを得ない局面を迎えつつある。KDDIはすでにスターリンク ダイレクトを活用した衛星直接通信サービスを提供しており、対立ではなく協業によって自社網の弱点を補う動きが先行している。
ビッグテックとの主導権争い
AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーは、引き続き地上データセンターへの巨額投資を続けている。一方でスペースXは、衛星やロケットという物理インフラそのものを自社で保有・製造する数少ないプレイヤーである。仮に軌道上データセンター構想が実用段階に達すれば、通信網と計算資源の両方を垂直統合で押さえる構造的な強みを持つことになる。実際、目論見書上ではアンソロピックやグーグルといったAI企業への計算資源貸出が新たな収益源として言及されており、インフラ提供者としての立ち位置が徐々に固まりつつある。