ファーウェイ、増収なのに減益37%の真意…2.9兆円R&Dが映す半導体自立戦略

 もっとも、その道のりは平坦ではない。露光装置の最先端であるEUV(極端紫外線)装置を入手できないファーウェイ・SMIC陣営は、旧世代のDUV(深紫外線)装置を複数回露光する「マルチパターニング」という力業で7ナノメートル級の微細化を実現している。海外の半導体専門メディアの分析によれば、AIチップ「Ascend」の歩留まりは1年前の20%前後から直近では40%前後まで改善したとみられるが、TSMCが製造するエヌビディア向け先端チップの歩留まり(6〜8割程度とされる)にはなお及ばない。

 半導体アナリストで経済コンサルタントの岩井裕介氏は「歩留まりの低さは製造コストの上昇に直結するが、ファーウェイはそれを販売価格の転嫁ではなく、豊富なR&D予算とグループ全体の体力で吸収している。歩留まり40%台でも事業として成立させられるのは、裏を返せば減益をいとわない経営判断があるからだ」と指摘する。

 実際、同社は2026年中にAscend910C系チップの生産量を倍増させる計画とも報じられており、歩留まり改善と量産拡大を並行して進める構えだ。

 人材投資も見逃せない。ファーウェイは「天才少年(Genius Youth)計画」など破格の報酬体系を用意し、新卒・若手研究者に年収数百万元規模を提示してきた実績がある。半導体・AI分野のトップ人材を国内外から集める人件費もまた、R&D費増加の一因とみられる。

「特需」に沸く日本サプライヤーの現実

 米国製部材を使いにくくなったファーウェイにとって、非米国系の高機能材料・装置を持つ日本企業は代替調達先として重要性を増している。フォトレジスト(感光材)は信越化学工業やJSR、東京応化工業など日本企業4社で世界シェアの約9割を握るとされ、シリコンウェハーの分野でも信越化学工業やSUMCOなど日本企業が高いシェアを維持する。特殊ガスや高機能ポリマーを含め、日本企業が世界シェアの多くを握る素材群は、中国が半導体の自給体制を築く過渡期において引き合いが強まりやすい構図にある。

 ただし、この「特需」を手放しで喜べる状況ではない。日本経済新聞の報道によれば、中国における半導体製造装置の国産化率は2017年の4%から2025年には21%まで上昇し、装置分野で存在感を持つ日系5社の対中販売額は初めて前年割れとなった。東京エレクトロンの中国売上高は2024年度に1兆円を超え、全社売上の4割に達したとされるが、同社の技術が中国国内メーカーに追い上げられる構図は年々鮮明になっている。東洋経済オンラインの報道では、業界関係者の間で「猶予はあと5年程度」との見方が示されている。

迫りくる「内製化の壁」というタイムリミット

 ファーウェイのR&D投資の最終目標は、部材から装置、OS、チップ設計に至るまでの「100%国内完結」にある。現時点で日本企業が提供している素材・技術も、中国国内ベンダーの技術水準が追いついた段階で置き換えられるリスクを常に抱えている。

 これは、過去に液晶パネルや太陽光パネルの分野で日本企業がたどった経路と重なる面がある。技術供与や部材供給を通じて中国メーカーの成長を後押しした結果、価格競争力で追い抜かれ、市場から退出せざるを得なくなった産業構造は、半導体分野でも繰り返されないとは言い切れない。

 ある電子部品メーカーの経営企画担当者は「中国向けの売上が伸びているうちは実感しにくいが、相手の内製化が完了した瞬間に取引が細る可能性は常に頭に入れておく必要がある」と話す。

 米国の対中輸出規制の枠組みの中で事業を続ける日本企業にとって、中国市場からの収益機会を追求するか、将来の中国依存リスクを見据えて取引を絞るかは、単純な二者択一では割り切れない経営判断となっている。