「勘と経験」の面接が優秀な人材を逃す…妥当性係数0.51の科学的手法とは

3. 曖昧な評価基準——「印象」と「フィーリング」選考
「なんとなく優秀そう」「コミュニケーション能力が高そう」といった感覚的な評価で合否を決めてしまうと、再現性や客観性はほとんど担保されない。『日本労働研究雑誌』に掲載された採用選抜研究のレビュー論文でも、日本企業を対象とした選考手法の妥当性検証はきわめて少なく、実務では構造化面接の導入が先行する一方で科学的な検証は後回しにされがちだと指摘されている。「勘と経験」に依存した選考が温存されやすい土壌が、日本企業にはまだ色濃く残っている。

「多くの企業で『優秀さ』の定義が、面接官一人ひとりの頭の中にしか存在していません。評価基準を言語化し、複数の面接官の間で握り合わせるだけでも、合否判定のブレは大きく減らせます」(人事労務コンサルタントで社会保険労務士の松田美里氏)

感覚値を排除する「構造化面接」と「コンピテンシー評価」の設計

 現場マネジャーの「目利き」を仕組みで平準化するうえで、最も有効な処方箋が構造化面接の導入だ。

 産業・組織心理学の分野では、面接手法ごとの「予測妥当性」(面接結果が実際の入社後パフォーマンスをどの程度言い当てられるか)が長年研究されてきた。Wiesner and Cronshaw(1988)のメタ分析では、構造化面接の妥当性係数が0.51であるのに対し、非構造化面接は0.38にとどまるとされる。評価者間の一致度(信頼性係数)についても、構造化された評価シートを用いることで0.7前後まで高められるとする研究結果がある。「なんとなく良さそう」という感覚に頼る面接は、統計的に見ても再現性が低いのだ。

 具体的には、旧来の「フィーリング型」面接から「行動事実型」の構造化面接への転換が求められる。

【旧来の面接(フィーリング型)】
・質問:雑談の中から「自己PR」や「強み」を尋ねる
・評価:「ハキハキしている」「第一印象が良い」など主観的な印象

【構造化面接(行動事実型)】
・質問:「過去に○○の状況で、具体的にどんな行動を取り、どんな成果を出したか」
・評価:自社で成果を出す人材に共通する行動特性(コンピテンシー)に合致しているかを客観的に採点

 導入のポイントは二つある。第一に、人事主導で「行動特性レベルの評価ルーブリック(採点基準表)」を作成し、現場マネジャーには固定化された質問項目と評価基準を渡すことだ。面接官の裁量をなくすのではなく、“何を見るべきか”の軸だけを揃える発想である。第二に、AI面接や一次スクリーニングツールが抽出したデータを、現場面接で「どう深掘りし、どう検証すべきか」を橋渡しするマニュアルを整備することだ。AIが拾い上げた強み・懸念点を現場が無視してしまえば、AI導入の意味そのものが失われる。

「構造化面接は『マニュアル通りに質問するだけの冷たい面接』と誤解されがちですが、実際には評価の軸を揃えるための土台に過ぎません。土台さえ揃えば、面接官はむしろ深掘りの質問に集中でき、候補者理解はかえって深まります」(同)

「選ぶ面接」から「選ばれる面接」へ——現場の惹きつけ力(CX)強化

 構造化面接によって評価の物差しを揃える一方で、現場マネジャーにはもう一つの役割がある。候補者を「見極める」だけでなく「惹きつける」役割だ。

 人材の流動性が高まり、有力企業による賃上げや複数内定によるオファー競争が常態化するなか、選考プロセスそのものが候補者にとっての“企業体験”になっている。面接官の対応一つで入社意欲は大きく左右される。実際、BPO事業を手がけるトランスコスモスでは、AI分析ツールを用いて面接官の話し方や質問の仕方を可視化し、個別フィードバックとeラーニング、定期的なフォローアップ研修を組み合わせた育成プログラムを導入した結果、内定承諾率が10%向上し、候補者アンケートでも「この面接官と働きたい」との回答が42%上昇したことが報告されている。面接官トレーニングは精神論ではなく、投資対効果を伴う打ち手になり得ることを示す一例だろう。