惹きつけの役割分担も明確にしておきたい。人事は条件提示や制度説明、面接調整といった“守り”を担い、現場マネジャーは「この上司の下で働けば自分はどう成長できるか」という“攻め”のビジョン提示を担う。そのために現場マネジャー向けトレーニングで核となるのが、面接前半で候補者の転職理由や本音の不満・希望を丁寧に引き出し、後半でそれを自社の課題やポジションの魅力(=候補者にとっての活躍機会)と接続してプレゼンする技法である。
ここまでの処方箋を機能させるには、人事から現場への「ご協力依頼」というスタンスを脱し、採用そのものを現場の業務・評価に組み込む必要がある。
第一に、事業部長クラスへ採用に関する権限と責任を委譲することだ。採用活動を「人事の仕事を受託する業務」から「事業部の目標達成に向けた投資業務」へと再定義し、採用枠の決定権と結果責任を事業部長が持つ体制に変える。
第二に、マネジャーの評価項目に「採用貢献度」を加えることだ。「面接対応件数」「内定承諾率」「自部署採用者の1年後定着率」といった指標を、マネジャーのMBO・KPI評価に直接組み込む。採用を“片手間の善意”から“評価される仕事”へ格上げすることで、現場の当事者意識は初めて醸成される。
第三に、「面接官別の歩留まり・辞退率」を可視化し、データとして現場へフィードバックすることだ。面接官ごとの一次通過率、内定辞退率、入社後の活躍度を数値化・トラッキングし、極端に歩留まりの悪いマネジャーには個別の再トレーニングを行う。感覚論ではなくデータに基づいて対話することで、現場も納得感を持って改善に取り組みやすくなる。
「採用KPIをマネジャー評価に組み込むと現場から反発が出るのではと心配する人事責任者は多いです。しかし実際には、評価に組み込まれて初めて現場は『本気で向き合うべき仕事』だと認識します。曖昧な“協力”のままにしておくことこそが、現場のモチベーションを下げている面もあります」(同)
AIやRPO(採用代行)の進化によって、母集団形成やスクリーニングといった選考初期フェーズでの差は今後さらに縮小していくだろう。マイナビの調査が示すように、多くの企業が「数」の採用目標はある程度満たせるようになりつつある一方、「質」への不足感はむしろ強まっている。この“質”の勝負を最終的に決めるのは、直接候補者と向き合う現場マネジャーが、どれだけ高い目利き力と惹きつけ力を持って選考に臨めるかにほかならない。
人事責任者の役割は、現場を管理・批判することではない。構造化面接という「物差し」を整え、評価とインセンティブという「仕組み」を通じて、現場が正々堂々と勝てる選考環境を用意する——いわば“現場のコーチ”としての役割にこそ、これからの人事の存在価値がある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松田美里/人事労務コンサルタント、社会保険労務士)
【主な参照データ・出典】
・「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」を発表|株式会社マイナビ
・ジョブ型雇用の今 2025/日本のジョブ型雇用の実態調査|JAC Recruitment
・職場での選抜研究——面接、適性検査、エントリーシートに基づく選抜手法の理論と実証|日本労働研究雑誌2023年7月号(労働政策研究・研修機構)
・面接官育成にAI技術とヒューマンスキルを融合——内定承諾率10%増を実現したトランスコスモスの新・採用力強化プロジェクト|HRプロ